刑務所の中
崔洋一
劇場版とっとこハム太郎 ハムハムランド大冒険
出崎統
月光の囁き
塩田明彦


●刑務所の中
  02 崔洋一 ( シネクイント)

 ストレスの多い現代社会の究極の癒しは刑務所に入ることだ!というとんでもない内容の映画。崔洋一の本領発 揮。皮肉なコメディーを誰も裁かずに撮れるのがこの人の特徴です。不条理な状態に持ち込めば持ち込むほど笑える ことをよく知っています。シンプルに出来た分だけ滑らずに済んで,
余計な説明をしない部分も省略法として活きています。
 主役の花輪を演じる山崎努が良いです。CMにでようとテレビに出ようとどうイジラレようと役者の質が変わらない、そん な強さを持っています。だからどんなにマヌケな役をやっても説得力があります。全編を進行する朴訥な素っとぼけたナ レーションは素晴らしい。この演出だけで日本アカデミー賞ものなのになあ(受賞できる作品じゃないけど)。相変わらず 香川照之はうまいし、田口トモロヲは浮きまくりだが自分のコメディリリーフの位置をきちんと踏まえている。たぶん映画 の中では花輪をマンガ家だとはっきりと言ってはいないのだが、それが良い結果にもなっている。 「落ちつくなあ」とい う主人公の精神状態なのか性格かを理解できるだろうかというのは杞憂だったようで、観客みんなケタケタと笑ってい た。細部へのこだわりの可笑しさは原作を読んでいたから納得できたのかなあ。観客といまの時代の空気をも共有でき る至福な時間の流れでした。(いかん洗脳されているぞ!)
(角田)


●劇場版とっとこハム太郎 ハムハムランド大冒険
   01出崎統 (新宿東宝)

 なぜベテランの出崎監督なのかわからん。樋口特撮監督による3DCGでダンスするキャラクター・ミニハムズの動きは すごかったけれど。セ ルアニメと3Dの両方を熟知してないと ああいう表現はできない。デジタルのみの世代には無理 じゃないだろうか。関係者には、そこら辺をぜひ見て欲しい。お話はねえ。ラストの人間のシーンくらいにしか興味がない んじゃないかとしか思えない。まあ良いけど。
(角田)

●月光の囁き
 99 塩田明彦 (テアトル新宿)

 原作は読んでいないのだが、本屋でちらりと立ち読みをした段階では、内容のダイジェストという感じがした。基本通りに切り返しでお話しをつないでいく語り口に、新しさはない。
  フェティシズムがエスカレートされていく過程が、誰の共感も得ることが出来ないキャラクター設定として描かれているので、その点が内容としてマイナスではないだろうか。 コミックの映画化の場合、コミックの中ではキャラクターはデフォレメされるためにキャラクターの設定は否応なく受け入れられるようになっていくのだが、それを映画化した場合には、エピソードを積み重ねない限り、キャラクターは観客の受け入れるものにはなりにくい。 その辺の力ワザが足りないために平面的なお話しをなぞったものとして仕上がっている。男女の関係性が替わるという分かりやすいシーンも上手く行ってない印象を受ける。シナリオを作るときに感情のラインを基調にしていないからかしらん。切なさが全面に出ず、最後まで変態性が表面に出ている印象を受けた。やっぱり終わりまでふたりの気持ちがよくわからんよ。題材は面白いのかも知れないけどね。
(角田)