ヘアスプレー
ジョン・ウォーターズ
ペイバック
ブライアン・ヘルゲランド
Heavenz それぞれの到達点
井出良英


●ヘアスプレー
 HAIR SPRAY 87 ジョン・ウォーターズ(ビデオ)

 悪趣味監督の50年代のボルティモアのテレビ局で行われた、若者のダンス番組を中心としたノリの良い歌謡映画。
 主人公が太めの女の子。彼女が人気を獲得していく話に、黒人差別撤廃の話が絡まったりする。ジョン・ウォーターズは的確なカット割りで主人公達を愛らしく描いている。悪趣味なところもあるがそれも洗練されている。音楽とダンスへの思い入れがこの映画を面白くしている。そこら辺は『クラック・ポット』を読んで欲しい。あまりに正当で楽しい映画。
 (角田)


●ペイバック
 PAY BACK 99 ブライアン・ヘルゲランド(日本劇場)

 『L.A.コンフィデンシャル』が当たったから、これやろうぜってノリで作られたとしか思えない、B級映画を甘い大作の条件(ギャラの高いスター、今っぽい派手な残酷描写)で固めたために中途半端に終わってしまった作品。
  冒頭のメル・ギブソンが撃たれて、弾丸を摘出しているところ(闇の医者がウイスキーでメスを消毒しているところは良い)や、ニューヨークのブルックリン橋を渡り、現金をこしらえて行くところなんか、 原作を読んでいないと何のことだかさっぱり分からない。その頃になってやっと1950年代の話なのかと思って、だったら現金決済もおかしくないなと考えていると、中国人マフィアが出てきたりして、あれ、今の話なのかなとも思い混乱する。どっちつかずの描写が、仲間に裏切られ取られた7万ドル。当時にしても、今にしても大した額ではないが、奪い返すだけでそんなに人殺すなよと言ってやりたくなる。
  アクションの描写が至近距離でバンバン撃ち合うだけの何の芸もカタルシスも無いモノになっていて、ドルビーの音だけうるさい。後半になると、組織につかまりメル・ギブソンの独りM状態となって、血まみれになるが、こういう芸風の人なのかねえ(『マッドマックス』、『リーサル・ウエポンシリーズなんかそうだよな』)。
  脇で出ている、ジェームズ・コバーンやクリス・クリストファーソンの方が貫禄あります。(それにしちゃ、扱いがひどいなあ。見せ場がほとんどないんだもん)。
  せめて時代背景だけちゃんとしてくれたら、渋い出来にはなったと思うのだが。
(角田)


● Heavenz それぞれの到達点
 井出良英(銀座シネ・パトス)

 英語は苦手なのだが、タイトルのHeavenzのzは複数形のsをzに置きかえるというアングラ世界では良くお目にかかる表現だ。コンピューターの世界にもwarez(違法コピーソフトを流通させる行為、またはそれら違法コピーソフトの総称)とかあるし。
 映画は山下徹大(加山雄三の息子さんらしい。そういえば、生命保険のCMで観たような気もする)扮する若手人気DJテツの青春成長物語。テツの片思いの女(関谷理香)の恋人役に笙の東儀秀樹がミュージシャン役(サックス奏者兼DJ)で出演している。
 この渋谷系の若者テツ君、やけに現状にイライラして、ケンカっぱやいのだが、正直、観客の我々のほうが、イライラする映画でカタルシスはまるで感じられなかった。DJを描く映画の割には音楽も退屈だし、クラブとかの現代東京風俗の描き方も平凡だし、役者も弱い。せめて「沙耶のいる透視図」(86年和泉聖治監督)くらいには楽しませて欲しかった。
 現代の若者が、退屈しのぎに無計画でアナーキーな行動を引き起こし、最初はうまくいくが、やがて警察や内部分裂によって一気に破滅へと向う…という「青春残酷物語」パターンの映画が好きなボクにはかなり不満の残る作品だった。
 ただ、300円でGETしたチケットなのであまり文句は言えないんだけどね。ちなみに観客は8人だった。
 (船越)