起きて転んでまた起きて
前田陽一
踊る大捜査線 THE MOVIE
本広克行
女必殺拳
山口和彦
女必殺拳 危機一発
山口和彦
オースティン・パワーズ
ジェイ・ローチ
オースティン・パワーズ:デラックス
ジェイ・ローチ
オーディション
三池崇史


●起きて転んでまた起きて
  71 前田陽一(中野武蔵野ホール)

 ナベプロでの3本目の仕事で役者の扱いがこなれにこなれて、その扱いで笑わせてくれるタレントの芸を観る映画に育っている。ちなみに調べたら併映は『日本一のショック男』と植木等主演で加藤茶、犬塚弘なんかでている、ナベプロの売り方の上手さを見るようだ。確か、観には行ったけどこちらは何の記憶にも残っていない。(といっても10年くらい前の話だけど)。一方こちらは、ぼんくら三流大学の城北大学、ボーリング部に所属するマチャアキと、新車を乗り回す同級生で幼なじみの典型的な浅草育ちの2代目のなべおさみは、ボーリングが好きでたまらない。物語はそんな2人にぴったりの浅草、向島を舞台に現代と粋がぶつかりコミカルにスケッチされる。
 なべのオヤジはアメリカン・クラッカー!!で一財産を築き上げた、それで金回りが良い。反発するマチャアキ。しかし、事態は急変。なべのオヤジが急逝。そしてアメリカン・クラッカーのブームを見誤って借金2千万を作って屋敷を手放すハメになる。オフクロさんと一人息子のなべは、浅草の花柳界の小さな家に居を構え、オフクロさんが昔していた芸者の髪結いの手伝いなどをするが、一念発起して大学を中退して、タクシー運転手として借金を返そうとする。そんなところに毎日、借金取りの小松政夫が2千円、3千円と巻き上げるが、その駆け引きが絶品の芸。一方マチャアキは、実家のカツラ屋(?)が当たって、将来は専務の羽振りの良さ。今度は反対になべが反発する。そんな事をしているうちにタクシーは事故を起こしてなべはクビになってしまう。仕方ないので、花柳界で俥屋をするが、ひょんなことでタイコ持ち(幇間)をすることになる。そのお師匠さんが、いかりや長介。この二人の踊りの稽古も息が合っておかしくてたまらない。ぼけと突っ込みがいい感じでやりすぎずに見せてくれる。しかし、幇間も失格で失意のなべに一発逆転の機会が訪れるのだが、そのあたりはほとんど古典落語のような畳み掛けるような、駆け引きや話術でたっぷり堪能させてくれる。
 役者の芸が厚くなった分、安心してふざけた設定もそれもありだよねという感じで見てられる。ただ監督がこういう浅草とかの世界にどれだけ興味があったのかなあというのは分からない。「やっぱモダニストじゃないかな前田氏は」と改めて感じた。ホントいい噺を聴いたなあと思わせる円熟した映画だ。
(角田)


●踊る大捜査線 THE MOVIE
   98 本広克行(ビデオ)

 ナンデコンナニひっとシタノダロウカ?TV番組ON AIR時に観ていた視聴者が全員劇場に行ったとは考えられない。リピーターあるいはCMスポット、口コミで観た人間のお陰か?消極的に考えれば無難な選択肢であることは確かだ。人気TVシリーズの映画化でTVスポットもバンバンやってるから、じゃあ観に行くかと。今度、『GTO』もヒットすれば、この説は実証されるわけだが、物事はそんなに単純じゃないと思う。
 決して良いシナリオではないが、テレビ視聴者というか、映画をイベントとして観る層にとっては充分通用する構造。君塚良一のシナリオは確信犯的に辻褄は合わないが、観客を引きつけるために必要なことは全てクリアしている。冒頭のアバンでこれは、コメディーであって、そんなに肩肘を張って観なくても良いことを示し、いつもの番組視聴者にはこれはいつもと同じ番組のノリの延長だと安心してみせる処理をしている。
 キャラクターが平板なので各キャラクターの対立構図が分かりやすく何が今問題になっているかすぐに分かる。その図式で感情的な対立をしている合間に事件が起きるため飽きない(が、小泉今日子は何のために出てきたのかわからん。ストーリーを解決するための
キャラクターに過ぎない)。それと適度なセンチメンタリズムが骨格となっているのでストーリーとしては破綻しているが、観客を引っ張るには充分だ。
 あとは、演出がTV番組を踏襲しながらも、映画というスケールで物量とか特機を上手く配置することで豪華さを出している。そのために「ああ、映画を観ているんだ」と言う気に上手くさせられる。カット割りや照明がフラットなところは、テレビと同じだけけれど違和感は無くテンポで見せられるだろう。戦略としては正しいと思う。その割り切り方がヒットの要因だと思う。
 映画にこだわらない映画ほどヒットするパラドックスが邦画に当てはまった最初の例ではないだろうか。『アルマゲドン』とか『タイタニック』もそういうことなのではないだろうか。
(角田)


●女必殺拳
  74 山口和彦(亀有名画座)

 志穂美悦子が若くて、可愛くて、それでいてアクションができる。全編それが堪能できる素晴らしい映画。
 ストーリーは、『燃えよドラゴン』のパクリです。最初の5分で、説明調台本により、香港警察なのになぜか日本語で説明されてしまう。かくして、志穂美=李紅竜は東京の貿易会社を探る。ここでは、麻薬の取引の噂がある。しかも、屋敷内には、各武道の達人が集まっているというわかりやすさ。東京で行方不明になった兄は貿易会社の地下に幽閉されていた。それを助ける。李紅竜のアクションに次ぐアクション。全編の80%がアクションというしかも、全然だらけていないところは◎。アップに耐えられる志穂美悦子が亀有名画座に炸裂。しかも、チャイナから、パンタロンとコスプレのサービス付きとサービス満点の痛快作。
(角田)


●女必殺拳 危機一発
  74 山口和彦(亀有名画座)

 勿論『女必殺拳』の続編。ストーリーは一作目とほとんど変わらない。助っ人の千葉真一が倉田保昭に代わったくらい。折角のヒット作を大切にしましょうね。クンフー映画で技にバリエーションがないからどうしても、敵側にバリエーションをつける必要があるけ
ど、それもチト苦しかった。
(角田)


●オーディション
  00 三池崇史(ビデオ)

 僕は三池作品を二つに分けている。本気で取り組んでいるモノ。カネのために気軽にやっているモノ。前者side-Aは黒社会シリーズ、『DOA』、後者side-Bは『アンドロメディア』、『ブルース・ハープ』など主に原作モノ。side-Aでは、確実にシナリオに手を入れている。side-Bはシナリオは変えずにコンテを切っていく作品だ。それでも見られる作品を作れるのは、シーンの演出のテンションの高さだ。
 もちろんこの村上龍原作もside-Bだ。違うって?だってさあ、ストーリーで展開が面白そうになったかい。面白かったところはオーディションのシーンの省略の仕方、編集のうまさ(ビデオを上手く使っていた)。袋の大杉漣。キリキリの前後。ほとんどショック
シーンじゃない。それもテンションの高い。演出に救われていると思うよ。
 撮る撮られる、選ぶ選ばれるの対立するすべての要素の意味が反転していく。男と女、オーディションされるのはどっちだ、選ぶのは果たして……。と畳み込んでいくところがスリリングだ。
 地味なキャスティングだけど、主人公の息子の描き方なんか、非常にいま風で良かった。これで村上龍も制覇した。僕は梁石日の「血と骨」を是非映画化して欲しいぞ。
(角田)


●オースティン・パワーズ
   AUSTIN POWER International Man Of Mystery 98 ジェイ・ローチ(渋谷セゾン)

 ギャグ映画はシナリオが命です。やっとバカバカしい映画が現れた。この間ビデオで『007 カジノロワイヤル』を観たけど、面白かったというか今観ているから、笑えるんじゃないかなと言うほど斬新だった。時間があったら観て下さい。
 で、この映画どこが良いかというと、基本的なアイディアは冷戦時代のスパイ映画のパロディを基本に、プラス、70年代のファッション(風俗、考え方)が90年代に突如よみがえったら笑えるだろうなという単純な発想で、これが当たっている。『オースティン・パワーズ』が偉いところは、リメイクじゃなく、オリジナルでキャラクターを作ったところだろう。今だったらいくらでもリメイクでオイシイ商売をしようとしている奴等が多いところをあえて、どっかで観たセンスを最大限に茶化しながらも愛情をこめて作っているところが良い。心がなごみます。勿論笑えます。が、クスクス笑いと言った感じでしょう。なんてったってイギリス風な(オフビートなね)ところを狙っているから、下品なところもまあまあ上品に見えてしまう。007で笑ったことがある人には大お薦め映画。まだまだ、素材をいじれば面白くなるジャンルってあるんだなと再認識しました。(ストーリーはばらさないよ。自分で観よう)。センスで言えば、赤塚不二夫まんがが好きな人にもお薦め。(だからさ、そんなにすかした映画じゃないさ)。
(角田)


●オースティン・パワーズ:デラックス
   AUSTIN POWERS THE SPY WHO SHAGGED ME 99 ジェイ・ローチ(丸の内プラゼール)

 第一作目より、お下劣度、下ネタ度倍増のどうしようもなくオバカシーン満載。ますます悪ふざけが強力に幼稚になってきているので本気でやっているのか、パロディーなのかわからんけど、豪華ゲストがワンカット出てたりして、こういう強引さがアメリカンコメディーの強さだなあと感じる次第。おしゃれ映画で売ろうとしていてもそんな事無理でテレビ放映できない過激なギャグばかり。
  この手のコメディーは続編の度にマンネリ化が進むけど、そんなことわかっているとばかりに確信犯的に開き直っているところがふてぶてしいというか、したたかな部分でナンセンスに徹してていい。
  第三弾が出来たらほとんど本当に面白いギャグの部分は日本人には理解不可能になるんではないだろうか。もう、主人公より悪役の方が面白くなっているからなあ、そちらのキャラクターの方が膨らみやすいからね。ジョン・ランディスやピンクパンサーシリーズのようにならなければいいけど。
(角田)