香港 小心地滑 日記

2001年7月15日〜18日

「小心地滑」とは雨が吹き込む屋外でよく見かけた看板の言葉で、滑るから足下注意の意味

1HK$(ホンコン・ドル)は20円で考えて頂けるとわかりやすいです。(ほんとうは18円くらいですが)



【7/15(日)第1日】 湿度90%、街じゅう全部がマーケット

 キャセイパシフィックのストライキはぎりぎりで解決したものの、当日の飛行機は中国北方航空の中型機で、予定されていた機内映画の上映もなかった。ともに香港初心者の男ふたりの道中(同行のMは初海外!)なので果たしてどうなることやら。単なる観光コースには収まらないだろう。

 香港への、到着予定時刻になっても一向に着陸態勢にならない。しかもますます雲は厚くなっていく。窓の外は一面真っ白。と突然フラップが下がり、雲が切れたとか思った次の瞬間には、ドンと軽い衝撃とともに着陸していた。逆噴射のなか豪雨の水しぶきが上がり窓の外が見えなくなる。誰だここ数日いい天気だといっていた奴は。Yahooの天気情報では晴れ時々くもりと出ていたのに。しかも気温は27度。東京より7度も涼しい。

 日本との時差は1時間なので時計を戻す。到着ロビーまで500メートル以上、延々と動く歩道を乗り、さらに地下の二両編成の無人シャトルトレインに乗る。だいたいどこの国でも入国ロビーに出れば、その国のにおいがするのだけど、この新しい空港は完全空調と雨模様のためにせっかくの採光抜群のガラス張りの建物に陽が差し込まないためだろうか、あまりにも無機質なロビーだ。入国手続きもパスポートNoを打ち込むだけで難なくクリア。

 
  ここから接続するエアポートエクスプレスの改札に向かう。行く手を遮るように円形のカウンターで、乗り物共通カードの「オクトパスカード」を買う。150HK$也。地下鉄、バス、フェリーをこれ一枚で乗ることができる。JRが始めたSuicaカードと同じ。使い方はカードの裏面を改札機の上の白い部分に接触させればよい。地元の人はバッグの一番外側のポケットに入れてバッグごと改札機に触れさせて通っていた。このカード使い出はあるのだけど、旅行者にはいまひとつ使いこなすまでは時間がかかる。まず150HK$のうち50HK$は保証金なので、実際のは100HK$までしか使えない。万一、改札を出るときにマイナスになっても、マイナス表示が出て借りという形で乗車することはできるが、次回からは駅の切符販売機の横にあるカード増設機で、カードの$を増やす必要がある。でもこれ50HK$か100HK$しかなくおつりも出ないので注意。どれだけ残っているかは改札の際に数字が出る。または券売機の脇にある機械で確かめることができる。あ、それから、旅行者は帰国するときに買った空港のカウンターで返金してもらうことができるから。われわれのように歩き倒す人はどうぞ。
 

 さて、われらがホテルは、繁華街とは反対の北側、新界地区にある。エアポートエクスプレスで一駅、青衣で乗り換え、次の茘景乗り換えなくてはならない。
 空港からは海沿いの線路をひたすら走る。4両編成の列車はきれいで10分おきに出ている。雰囲気は成田エクスプレス。でも全席自由席。10分ほど乗って次の青衣駅。エアポートシャトルと並行して走っている東涌線。節約して市内まで行きたい人は、20分くらいの違いだからここで乗り換えると良い。こちらの駅のエレベータは全面ガラス張りなので、ホームにいても圧迫感がない。日本だとやれ清掃が大変とかいう話になるんだろうな。ちなみにエレヴェータは日本製。  あとイギリスの植民地だったので、1階がGで、2階が1階となる。慣れるまではたびたび迷う。エスカレータも全然速くて快適。歩く人は左側を通る。基本的に屋内はどんなに広いスペースでも狭くても全部冷房が入っている。まあこちらの人は外でも汗かかないんだけどね。歩くスピードはやはり速いです。といってもせかせかしている印象はありません。まあどこでも大声でよく喋るわ。男も女もずっとなにか話してます。携帯電話ですが、一人一台ペースで持ってますね。NOKIA製の手のひらサイズのものが主流。着信音は甲高いピッピッピッピッで、何人かは着メロもいました(まだそれほどの流行じゃない)。地下鉄でもどこでもよく話してます。
地下鉄の車窓から、都心は地下に入る

  

 さて二度乗り換えて、地下鉄の終点駅のに着いたのが夕方5時。駅を出た途端、ものすごい人出。と豪雨。今日は日曜日だった。(でも他の日も人出はそれほど変わらなかったが)。
 街のにぎやかさは日本人の想像を越える。日本でいえば駅前商店街の一番にぎやかな一角たとえば、100m×100m分の店舗が街じゅう、いや香港じゅう全部続いていると考えて欲しい。街全体が商店街だ。

 ここの駅前の賑わい方は町田とかそういう感じ。駅の出口は2階。そこから隣のビルそのまた隣へと、延々1キロほど、ビルの2階を通路が繋げている。一つのビルの中を抜けて次のビルへ行ける。昔の駅ビルのようだ。もちろん人が通る両側は店舗で賑わっている。店の感じも駅ビルで天井の低い通路に飲食店、床屋、雑誌スタンド、電器修理屋、不動産屋。その間に上の階にいくエレベータがあり警備員が座っている。ビルの上は30階建てのアパートになっていて、住人の入り口になっている。他もだいたい同じ作り。駅ビルの上が自分の部屋ということになる。逆にいえば、遠くに見える高層アパートの下には必ずスーパーマーケットがあると思えばいい。

 しかし、地元のひと以外にはどこに繋がっているかわからない。行き先表示板はほとんどないのでビルの中から外に出ようとするだけで迷う。日本のように一階の入り口が広く取ってあるわけではない。2階がメインなのだ。さんざんビルの中を迷った挙げ句、なんとかホテルに到着する。駅からは渡り廊下を辿って15分のはずだが30分かかった。すでに汗でダクダク状態。
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 パンダホテルは30階建て2000室以上ある観光ホテル。空港に近いが、繁華街から離れているためか値段はそれ
ほど高くない。欧米人も多かった。ただ水はけがいまいち、壁が薄いなど難はあるが。行けなかったけど屋外プールもある。
 
 

 荷物を解き、さっそく夕食を摂るために街へと向かう。こちらでは帽子やサングラス、髭や長髪はほとんど見ない。男は派手なシャツは着ない。これに当てはまるのは日本人くらいだから観光客とすぐばれる。あとサンダルの香港人はやはり多い。これに携帯電話なら間違い無い。
 地下鉄駅のアクリルの大きな看板広告には8月公開の反町隆史とアンディ・ラウの「FULL TIME KILLER」が街中に溢れていた。

 駅の入り口にあるキオスクで、建物地図とバス路線がわかる香港街道地方指南というガイド(62HK$)を買う。地下鉄放送は英語と広東語。車内広告は電光掲示板。網棚もない。
 およそ20分で繁華街の尖沙咀に出る。ちょっと時間が早いので一駅前から歩くが、雨がどんどん強くなる。名物の看板づたいに、かなりの高さから滴が垂れてくるのでけっこう濡れる。観光客も地元の人も傘を差していて『ブレードランナー』の世界。などいっているよりもいまの問題は「傘がない」だ。横道に入ってセブンイレブンを見つけた。折り畳み傘を購入。なんとセブンイレブンオリジナル傘。こっちでは一ブランドのようだ。しかし店は日本のような品揃えではなく、酒屋が転業したやる気のないコンビニのようでこじんまりしている。

  

 さてようやく歩き始める。看板の密集度も肉眼で見ると、それほどでもないし、極端にでかいのも繁華街の一部分だけだ。それでも圧倒されるけど。このなかでもマクドナルドの看板は新しく目立つし数も多い。

 オノボリさん気分で上海料理店「滬江大飯店」へ行く。店内は広く、あまり待たされずにテーブルに着くことができた。やはり日本人が何組かいた。席に着くと雨に濡れたところに冷房が効きすぎてはっきり言って寒い。メニューは英語付きだったのでなんとか読めた。
 お目当ての前菜、鳩の紹興酒浸けは、一羽丸ごと「こんちわっ」ていう感じで出てきた。牛肉と野菜の炒めもの。これは野菜が食べたことない種類のものだった。それと辛酸湯(辛いスープ)にビール。日本人的な麺飯でしまるところまではたどり着かない。ほかのテーブルでは数品に甘い点心というのが多かった。むこうの日本人のテーブルには山盛りの焼きそばが来て困惑していた。すべからく料理の量が多いので、日本人には食べきれない。無理すると胸焼けがする。あとこちらでは食事中あまり酒は飲まないようだ。たしかに飲んで食べようとしても食いきれない。味はおいしい。といって特筆するほどでもない。東京や横浜の中国料理店でもこのくらいはという味。まあ素材が良いのでその差はあると思う。勘定は451HK$。ほかの店もそうだけど、レシートはくれない。
 一時間半かけて食事を終える。店の外に出ると雨は止んでいた。レストランから歩く。この時間というのに人出が多い。別に観光客だけでもない。電化製品の免税店や「ロレックスのニセモノあるよ!」のインド人を振り切りながら歩く。(日本人相手の客引きはそれくらいだった)。こちらでは頭にターバンを巻いたシーク教徒のインド人をたくさん見かけた。あとメイドをしているフィリピン人女性も多かった。
 HMVは世界中どこでも作りは同じ。1階がヒットチャートや新譜、2階が洋楽、3階がVCD(ヴィデオCD)、DVD、ゲームソフト。4階が広東ポップスとJポップ。日本のポップス、aikoや宇多田ひかる松隆子(こう書く)、日本のドラマ主題歌全集(サザンやB'zなどごちゃまぜ。どういう版権だ?)が売れていた。テレサ・テンもワンコーナー占めている。アイドル歌手もかわいい系から歌姫のようなジャケットまで数多く並んでいた。唄い方がクビを締められて呼吸困難になっているような宇多田ひかるを真似たものが多かった。そういう影響ってダイレクトなんだなと感じる。

< さてVCDとDVD だが、両者の数は互角。だけど圧倒的にVCDを見ている人が多い。値段が全然違う。最新のものでVCDが50HK$に対してDVDは200HK$以上はする。ゆえにVCDしかチェックしてない、すまぬ。品揃えだけど香港映画は、数はかなりあります。旧作になると6HK$から20HKSでバーゲンされています。有名どころの王家衛(ウォン・カーワィ)の『花様年華』は60HK$。ジョン・ウーの『狼たちの挽歌』は50HKS。ブルース・リーやジャッキーチェンも全作あるのではないでしょうか。またテレビドラマシリーズも売ってます。洋画はめぼしいものはありませんでした。最新のものも公開が日本より早いためにVCDになっているものくらいで旧作などもないです。充実しているのは日本のアニメとテレビドラマ。テレビシリーズがそれこそ「ちびまるこちゃん」からあります。邦画は新しいものが一通りはあります。なぜか『青春の蹉跌』があった。アダルトものが堂々と一棚占めていて女性も眺めていた。中身はほぼ日本のAV。4、5年前に消えてしまったようなAV嬢のシリーズや中山美穂激似流出ビデオなんてものまであった。買い物はもっとレアなものがあると考えて後日にまわす。腹がいっぱいのために歩いても腹ごなしにもならず、デザートはあきらめてホテルへ戻ることにする。

 夜にもかかわらず九龍公園とかの暗がりに人が入っていったが、ほんとうに一概に安全なのかはわからないのでコメントはしません。われわれの行ったところでは危険さは感じなかった。
途中、コンビニのOKストアに寄って、ミネラルウォーターを買う。店の中でカップ麺を食っている青年たちがいる。地元の麺や粥の店は深夜まで人が絶えない。24時間営業も当たり前のようだ。バスもずっと営業していて大きなバス停の近くからは、20人乗りくらいの小さな緑色のミニバスやタクシーに乗り換えられるようになっている。それこそ網の目のように交通網は完備されているといえるだろう。どこへいくにも待たずに近くまで行けるということだ。

 ホテルのテレビでは「ミス・ホンコン」の中継や「ミリオネア」の香港版がやっていたが、みのもんたのような濃いキャラはいなかった。2008年のオリンピックが北京に決まったのでそのニュースもトップだった。ニュースでは盛り上がっているのは北京だけで、香港も台湾も冷静な様子だった。また深夜にはソフトポルノが放映される。ぜんぜん絡みもないし、胸が見えることもないような内容なんだけど。ついついみてしまう。
 
 
 

【7/15(月)第2日】南Y島漂流、朝飯奇譚、ヒルサイド・エスカレータに驚愕

 あさ起きると小雨。テレビの天気予報では、気温29度。湿度94%。ううっ、しんどい。冷房がんがんなのでなぜか掛け布団には薄い毛布。だけどこれでちょうど良いくらいだ。       ホテルの窓からも高層アパートしか見えない 

 いざ出発と駅周辺を探索。近所の賽馬會徳公園に行く。ちょっとしたショッピングセンターくらいの敷地の公園は、いぜんは誰かの屋敷だったようだ。園内は白い石畳にコンクリートの屋根付き回廊。装飾が沖縄の首里城とかの感じ。回廊の囲まれた中に大きな池があり、鯉や亀が泳ぐ。築山もあるがまったく土は露出せず、すべて石畳で覆われている。中国寺を人工的にした雰囲気だ。日陰で新聞を読んだり、おしゃべりをする老人たちで賑わっていた。
 少し古い建物が立ち並ぶ界隈を通ったが、街はごみが落ちていたり、目に付くところに集められたりしてない。ごみの腐臭もない。車の運転も荒くはない。ミニバスはけっこう跳ばしているが。タクシーも渡る人を煽るようなことはしない。まちなかでの怒声も聞かなかった。もちろんみんな信号は守らない。待っているのは我々くらいだ。

 

 で、朝飯ということになり、駅周辺へ向かった。駅前の新しい商業ビルでは、キティー・カフェというサンリオキャラの軽食屋があった。またジャンクフードの店が、パンとソーセージの朝食メニューが繁盛していた。隣のレストランでは、朝の飲茶が始まっていたがだれも入っていない。昨日食べ過ぎで中国料理もちょっとという気にもなっている。そのうちに道に迷い(またかい)放浪すること30分。汗はかくはで、はやくもヘトヘト。ようやく一軒の店を見つけて英語で書かれたメニューを確かめ、えぃと入る。食券形式らしく、英語の通じないねえちゃんに何事か言われるが、てきとうに頷き、ふたりだというと、朝食メニューにかないとメニューを指さされる。げっと思ったがこれ以上歩く気にもなれず目見当で注文する。まわりをみていると澳門(マカオ)料理の店だとわかる。そのうち待っても料理がでてこない。早くできるのが中国料理じゃないのかと思ったが文句つけられる語学力もないので黙っていた。すると給仕のおばちゃんがなにやらわめくので、食券売り場に行くと、発泡スチロールの容器が入った白いビニール手提げ袋を渡される。なんと最初に聞かれたのが、お持ち帰りかどうかだったらしい。そんなことガイドブックにも載ってないぞ。と抗議もできないのですごすごと撤退する。さあどこで食べようと思ったけど誰も外では食べていない。良く考えたら、暑いのにすぐ近くにたくさん安い食べ物屋があるのに外で食う奴はいない。仕方なしに駅裏の噴水の横のベンチを見つけ食べることにする。

 よく渋谷などで西洋人観光客が外で牛丼とか食べているのをみかけたけど、日本でも同じようなやり取りがあったのではないだろうか。
 容器の中身は、トーストと目玉焼きにソーセージにアイスコーヒー。Mはトーストの代わりにハムとソーセージが入った麺。ハムがむかし懐かしコンビーフ入りの分厚いかまぼこの大きさの魚肉ハムの味。ソーセージも薫製というより腸詰めの味。中国ハムってこんな感じ。けっこうわたしは好きな味。コーヒーは砂糖ミルク入りで噂どおりものすごく甘い。「茶文化圏はコーヒーが洗練されていない」の鉄則どおりだ。
  こんなわれわれにも係わらず、ベンチで隣に座っていた胸をすこしはだけたシャツを着た男たちは無関心だった。香港名物の鳥かごをもって鳴かせているひともいた。ちょうど駅は地下鉄と郊外行きの電車の乗換駅で、噴水のところも駅の上にあたる。コンクリートの駅前広場の隣には小学校があり、その隣には高層アパートが何棟も立ち並んでいる。日本で言えば、駅前の立体広場に学校があり、駅ビルの上に30階のアパートがいくつもあると想像してもらえばわかりやすいと思う(余計わからないですかね)。

 地下鉄で中環(セントラル)まで行く。相変わらず携帯電話の着信音。車内で寝たり、本を読む人は少ない。若い女性で日本語のnonnoを読んでいるのも何人かいる。ちょっとしたキオスクでも売っていた。こちらの芸能情報はここで手に入れるようだ。
 地下鉄の出口案内は合理的で地上までは簡単にたどり着くが、出た途端に目標物がなくなるのがここの特徴。だって街じゅう似たような看板だらけなんだもの。方向感覚には自信があるほうだけど、まったくわからない。しかも、地上を歩いていると、急に広い交差点に出て渡るところが見つからなかったり、地上二階でビルの中をくぐり抜けていく通路が複雑だったりして、なかなか目的地に着かない。教訓としては、まっすぐ目的地の方向に進んでも近道になるとは限らないので、広い道やなるべく人の流れにしたがう。それに気づいたのは最終日だったけどね。      スター・フェリーから香港島を望む。うしろの山がビクトリア・ピーク

 

 で、ぐるぐる迷って(またかい)、ようやく南Y島(ラマ島)行きのフェリー乗り場にたどり着く。ここまで駅から15分。隣のスターフェリーの乗り場から5分かかる。フェリー乗り場は島ごとによって違うので注意。チケットを買い、一息ついて私はギネスビールを、Mはコカコーラを買う。缶入りギネスは苦すぎ(ビール文化もいまひとつだ)。コーラはプルトップが昔のポイ捨て型だった。

  また小雨が降り出したなか、100人乗りくらいの小型フェリーは、高い波を越えて南Y島に向かう。海は粘土のような泥色。湾内を多くのフェリーやサイパンが行き交う。沖合いにはタンカーが止まっている。30分で南Y島の南の港、索罟湾につく。湾内にはいくつもの生け簀がみえる。桟橋からの道沿いには何軒もの海鮮レストランが広がる。まだのんびりとした感じが漂う。それを過ぎると文字どおり何もない(……)。昼飯にも早いし、フェリーはこことセントラルの往復なので島の北側には行けない。仕方なく、八甲田山を登る決意で、90分ハイキングコースを歩くことにする。なんで香港でバイキングではなく、ハイキングなのかというベタな疑問は封印する。      湾内の漁村風景。生け簀が点在している
 
 
 
 
 

 



 樹々は背が低く葉が広い、広葉樹林でジャングルというほど鬱蒼とはしていない。島の中腹へと登ると木はほとんど生えておらず、山の斜面は蒼々とした雑草に覆われ大きな岩が点在する。まるで低予算カンフー映画の決闘の場の様だ。尾根から見ると南シナ海が西側に広がる。といっても島の間の海峡くらいにしか見えない。  

しばらくすると小さな浜辺に出た。まだ海に入る人も少ない。小さなレストランで休憩を取る。と、長髪のカメラマンと白い帽子をかぶった若い女性が来た。どうやら取材らしい。いかにも業界人ファッションなのかnonnoを読んでいるのか、帽子の女性は他にひとりも見なかった。ここから北側の榕樹湾までは人通りが多く、外国人の別荘や若い人たちが、旅行なのか多く見られた。八百屋にはドリアンが売られていた。


ようやく港の入り口にある、海鮮レストランに入る。ビールは大瓶の青島ビール、エビと野菜の炒めもの、貝と豆腐のスープ、水槽から取り出した、体長30cmの魚(ハタ)の蒸しもの。 さすがにこれだけで腹いっぱい。で300HK$。いやここはコックの腕がいい。野菜への火の通り方など微妙に野菜のシャキシャキ感を残しているなんてなかなかのもの。

 南Y島には夜、海鮮料理だけ食べに来る価値はあると思う。なんて南国気分に浸っていると、船に乗る現金が足りないことに気づく。銀行も時間が遅く閉店している、共通パスでは乗れないというし、両替のできるホテルもない。困った、電波少年のように野宿か、皿洗いのバイトをするのかとの考えが一瞬脳裏をよぎる。もう一度だけ銀行の横のATMをじっくり見ると、なんと上の隅にクレジットカードが使えるカードのマークがあった。なんとか現金をおろすことが出来た。ばかだねえ。
 

  さまよいながらも南Y島を脱出に成功したわれわれは、ビクトリアピークに向かおうとする。が、ふもとから見ても山頂は霧に包まれて見えない。じゃあここから近くて天気が悪くても良いところというので、世界一長いエスカレータ「ヒルサイドエスカレータ」に向かう。これは映画『天使の涙』に出てくるあのエスカレータ。繁華街のビルからはじまって、大胆な急勾配を昇りながら街を横断していておもしろい。これが延々と1キロくらいの区間、途中で降りられるように道路と連絡しながら何台にも分かれて動いている。高さで言ったら20階分くらい登っているのではないだろうか。もともと階段のあるところの横に作られているので、すぐ脇にオープンカフェやスポーツ・ジムなども見られ、ちょっとしたおしゃれな雰囲気の場所になっている。NO FILMMINGと書いてあるのは映画の影響だろう。夕方だからか利用する人は多い。登っていくと上の方ほど新しく高級のマンションになっていくのがわかる。
 

 狭い土地にどこまでも伸びる高層ビルや立体交差の多さは、地震がないから細い鉄骨でいいんだろうと思うけど。それにしても、建築中のビルを見ると、遥か上まで足場が組まれているが、これがぜんぶ竹。一本3メートルくらいの竹を針金も入っていないプラスチックの紐で結んだだけで組まれている。一番下の足場は、地上に接地していないのだから。どうやってビルを作るんだか。でも他にも、考えるとどのビルにもエレベータや空調、水道管があるわけで、それだけで一大産業だよな。『未来世紀ブラジル』のロバート・デ・ニーロのような偏執狂の職人がいるのだろうか。

 と、エスカレータが高級マンションの入り口で突然終わる。終点にここからビクトリア・ピークまで歩いて行けると書いてある。バスでケーブルカー乗り場まで10分くらいで行ける。バス停の近くに不動産屋があり、物件が出ていたが値段なの基準がわからない。ここらに別荘が持てたら最高なんだけどね。

 二階建てバスに乗り、山を下る。二階からみるとこれが恐い。アップダウンの激しい山道やバイパスを通るのでちょっとしたライドもの感覚。あっという間に市内まで降りてきてしまった。有名な中国上海銀行が目の前に見える。でかい。このあたりのビルを見ていると遠近感の感覚がゆがむ。無秩序に建てられた建物の間を人や車が普通に通り過ぎて行くと変な感じがする。ビルから出てきたスーツ姿の人々が歩くなか、公園で太極拳している壮年の男がいる。不思議だ。
 
 


スターフェリーは地下道を抜けてすぐ。乗り場では両替が出来たり、コーヒーショップもある。ディーゼルエンジンのうるさい軽油臭い船内は古くさいイメージがある。約10分感覚で2隻がピストン輸送しているが、九龍と香港島は地下鉄のほうが便利にできている。対岸に渡るとちょうど7時30分で陽が暮れる。すぐ脇の公園で夜景を見る。やはりきれいだ。ネオンサインは日系と韓国企業が目立つ。フェリー乗り場に映画の撮影隊がいた。といっても照明部も録音部もいなかったので実景だけだろう。キャメラもARRIのBLだったし。

 
 
 
 


   ここからバスに乗るが、冷房車じゃなかった(焦らないで冷房車を探すのが良い!!)。走っているときはいいが、止まると汗が吹き出る。通りの左側の車線がほぼバス専用レーン。同じ方向に何台も行くので、バス停で混まないようにバス停の位置を分散させてある。だからどこに停まるかを知らないとバスに乗れない。バスとバス停に番号が振ってあるので、その通りにいけば間違いない。バス停にも路線図は書いてある。混んでいるネーザンロード(彌敦道)を競い合うようにバスが行くので冷や冷やする。ドライバーは運転技術はある(ぎりぎり数センチまで車間を詰めるのでこわいが)。

 地図を見て旺角で降りる。ここも尖沙咀に劣らずにぎやかなところ。こちらはブランドショップやホテルがそれほど多くない。でオタクビル新和中心に向かう。東京にもいそうなオタクな若者が次々とビルに向かう。ビルは4階までエスカレータで昇れ、店内にアニメのVCD や広東語のマンガ、フィギア、アイドルグッズの店舗がぎっしりと並んでいる。各店人でいっぱいなのだが、店先のモニタから日本語が流れそれを熱心に見ている香港人がいるとここがどこだかわからなくなる。ほとんどが日本からの直輸入がウリのようであまり珍しいものはなかった。
 ビルを出て、女人街へ向かう。テレビ番組で良く見るところだ。道路をふさぎ両側に屋台が出て5メートルほどの天井まで洋服が並べられている。Tシャツ、下着、タオル、ぬいぐるみ、時計などの店があるが、品揃えは似たものが多かったし、それほど変わったものやコピーものも見あたらなかった。しかしとりあえずこちらでTシャツを買って着ようと荷物を少なくした我々は、その後デパートや商店を探しなんとか買い物できた。

帰りの地下鉄で腰までのチャイナドレスにロングスカートの若い女性を見かけた。なんとも恰好良い。こちらの女性はTシャツにジーンズ姿が多かった。スリムな体型でも良く食べるから不思議なものだ。

 

ホテルに着くころには疲労困憊しているが、腹はそれほど空かない。悔しいけど食べられないので、マクドナルドへ行く。店員の対応は遅く、バイトが5人くらいいるのにカウンターは一つしか開けない。マクドナルドはこちらではあまりステイタスが高くないらしい。10時でも小さな子どもを連れで来ている親子もいた。宵っ張りの街だ。
 ホテルのテレビでは「ショムニ」の吹き替え版をやっていた。若者向け音楽番組では日本のプロモが良くかかっていた。近畿小子(kinki kids)には笑った。深夜には60年代くらいの白黒映画。二枚目とチャイナドレスの美女の恋愛ものだった。

 
 

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