Make your own free website on Tripod.com

崩壊家庭諧謔小譚

こんびにえんすブルース


主な登場人物
瀬戸山 幸雄(44)・・・・・私立探偵
 佐野原 純一(57)・・・・・設計事務所所長
 佐野原 舞夢(8)・・・・・・佐野原の長男
 戸坂 響子(32)・・・・・・舞夢の母
 田口 良一(55)・・・・・・探偵事務所の所長
 野呂 雅志(20)・・・・・・探偵助手
 神崎 道代(40)・・・・・・瀬戸山の古い友人
 神崎 妙子(8)・・・・・・・道代の娘
 花輪 美樹(17)・・・・・・・登校拒否の女子高生
 山辺 伊太郎(72)・・・・・・瀬戸山の昔の上司
 山辺 キミ(62)・・・・・・・伊太郎の妻


ストーリー
  
家族が再生するには、崩壊しなきゃならない。そん な間抜けでドジでどうしようもない家族の物語。
  そこに誘拐という事件を絡めて描いた演じることだけで成り立っている『家族』のドラマ。
●十二月二十六日

1 東京の街角(オフィス街)・朝
   ごみ収集車が師走の街を通り抜ける。

2 同・オフィスビル・ごみ捨て場
   総ガラス張りの高層ビル。
   ゴミ収集車が裏口のごみ集積所へ回る。
   前夜のクリスマスの名残のシャンパンの瓶やケーキの箱を車に積む。
   片隅に大きな建築物の縮尺模型がある。
 清掃員キヨシ「これ捨てるのかな。何だろう?立派な模型みたいだけど」
 清掃員タケオ「いらないから捨ててあるんだろう。キヨさんは子供に何かプレゼント買ったのかい」
 清掃員キヨシ「いや、現金にしてくれだとさ、なんでも親に決められたくない自分で決めるんだってさ。
       ガキのくせにかわいげないよな。………今日はいつもより道が混雑んでるから急ごうぜ」
   ごみを収集して車は出ていく。

3 同・オフィスビル31階
   
フロアの半分を借り切った程の広さのオフィス
   『佐野原建築設計コンサルタント』と書いてある。
   オフィスの中では数人の男女が忙しそうに働いているのが見える。
   そこにビジネススーツの女性がやってくる。そこに社員Aが報告する。
 社員A「戸坂さん。設計部にあった大型処理施設の模型。新しい模型を置くスペースないんで
    ゴミに出しときました」
   女性は戸坂響子(32)。
 響子「そう……、もう昔の記念品だったから構わないわ」

4 同・社長室
    社長席には、佐野原純一(57)。頭の禿げ上がった風采の上がらない感じだが着ているスーツは高価だ。
   机の上を片づけながら数人の社員と談笑している。
   響子が入ってくる。 
   気づいた社員はこそこそと、去っていく。
 響子「これで、私の今年の仕事は終わりです。後は来年にしてもらうようにしてあります」
 佐野原「ご苦労様。良い休暇を……。ところでどこへ行くつもりだい。どうせなら家族で
    一緒に行けば、ハワイでもグアムでもどこでも連れて行けるのにねえ」
 響子「いえ、一人で静かに過ごすつもりよ。別居しているのに良く言うわね。余計なことはしないで頂戴」
 佐野原「舞夢も喜ぶのにな、残念だなあ」
 響子「子供をダシにしないでよ。会わせてもくれないくせに」
 佐野原「だから、離婚訴訟は取り下げても良いと言ってるじゃないか。家族水入らずも良いぞ」
 響子「まだ脅すつもりなの。私はあなたと暮らしたくないの。分からない人ね」
   書類を佐野原の机の上に叩き付けて足早に去る。

5 都会の国道・高速道路の高架下
   
年末の寒い日の午後。副都心に近い私鉄の各駅停車しか止まらない小さな駅。
   駅のすぐ横を片側三車線の国道が走る。
   さらにその上を首都高速道路が走っているために一日中陽が差さず薄暗く、騒音が絶えない。
   不法駐輪で埋め尽くされた狭い歩道にへばりつくように、雑居ビルが林立している。
   不動産屋、サラ金、怪し気な飲み屋。
   とあるビルの入り口から突然たくさんの小学生が現れて思い思いの方角に去っていく。

6 同・車外観
   
ビルから少し離れたところに路上駐車をしている車が一台。
   先ほどから宅急便のトラックの影で目立たない。
   車の中に先ほどからビルの入口をじっと見つめている男が二人。
   カメラは彼らの視線を追い、ビルの上の階にパンアップする。

7 3階の窓
   
窓には『栄進塾』と描かれている。

8 同・室内
   
三十人ほどが入る教室。
   外の廊下では子供たちの嬌声。
   すでにほとんど生徒の姿はない。
   黒板には『メリークリスマス・アンド・ハッピーニューイヤー。来年もまた元気で会いましょう』
   とイラスト入りで書かれている。
   授業は今日で終わり。
   教室の隅で教師と生徒が座って深刻な顔で話をしている。
   教師は松山憲司(34)。生徒は佐野原舞夢(8)。
   舞夢は先ほどから俯いて、松山が困ったように一人で話している。
 松山「帰りたくないと言っても、君の家はお父さんのところだけなんだよ。お父さんが嫌いなのかい」
   舞夢うなずく。
 松山「(困惑して)でもね、お父さんの気持ちを考えてあげなきゃ。忙しい中、君を引き取るんだからね。
   せいぜい仲良くしてあげなさい。それが君が出来ることだからね」
   と、舞夢を立たせる。
   舞夢、出口に向かいながら
 舞夢「先生、ボクってサッカーボールみたいだと思わない。パパからママへパス。
   またママからパパへパス。行ったり来たり。バッカみたい。早くシュートを決めて欲しいよ」
   唖然とする松山。
   松山にニコッと笑いかけ、外へ消えていく舞夢。
   溜息をついて見送る松山。

9 車・車内
   
時計を見る男。瀬戸山幸雄(44)。
   なぜか、ビラ配りのサンタクロースの赤い衣装、白い髭をしている。
   運転席には年若い男、野呂雅志(20)。
 瀬戸山「クリスマスって、昨日なのか。イブと次の日はどう違うんだよ。
     ガキの頃はケーキはいつも残りもんの一日遅れだったから今もよくわかんねえな」
  野呂、答えない。
  ビルの入り口から舞夢が現れたのを見て、舌打ちしてドアを開けて出る。
  外の寒さに思わず身体を縮める。
 瀬戸山「ヒーター強うしとけよ。三十分遅れだ」

10 歩道
  
ゆっくりと歩く瀬戸山。前方にきょろきょろしている舞夢。
  舞夢、コンビニエンスストアに入る。

11 コンビニエンスストア・店内
  
お客で賑わう店内。
  舞夢が何気なく店内を見ているが、不意にエッチ本を鞄の中に隠す。
  そのまま堂々と出ていく。

12 コンビニエンスストア・外
  
舞夢が立ち去ろうとすると、後から店員が追いかけてくる。
 店員A「ちょっとキミ、またお前か。鞄の中見せろ」
  と鞄をひったくる。
  舞夢、ニヤニヤしながら
 舞夢「パパの電話番号教えようか。携帯がいい?」
 店員A「警察に連絡するから中に入れ」
  と舞夢の手を引っ張る。
  その時、横から
 声「金払うのに、神様の客を泥棒呼ばわりするのか、この店は」
  声の主は瀬戸山。
  瀬戸山、舞夢の肩に手をかける。
 店員「でも、万引きの現行犯だから」
 瀬戸山「何言ってるんだ、幾らだ今払ってやるから、ほれ」
  金を渡された店員は、恨めしそうに店内に消える。
  瀬戸山、それを見送って、
 瀬戸山「佐野原舞夢君だね。おじさんは迎えに来たんだよ」
 舞夢「ぶたないで、オジサンだあれ。パパの知り合い」
 瀬戸山「そ、そうだよ。あの車で行くんだ。さあこっちへ早く」
  瀬戸山、国産車に合図をする。
  舞夢が露骨に嫌がり逃げようとする。
  瀬戸山、ひきつった笑顔で舞夢を無理矢理車に押し込む。

13 車・車内
  
野呂があわてて車を出す。
  タイヤを軋ませて飛び出す車。
  他の車にぶつかりそうになりながら無理矢理、国道の車の流れに乗る。
  ジグザグ走行を続けながらどんどん小さくなる。
  ビルの入り口から松山が飛び出してくる。
  瀬戸山達の乗った車を見送る。

14 メインタイトル
 
 『こんびにえんすブルース』
   スタッフキャスト・タイトル
   疾走している車の走りに
   タイトルが重なる。

15 車の中
  
サンタクロースの赤い服と帽子。白い髭を取っていく瀬戸山。変装をむしり取る毎に不機嫌な顔になっていく。
  おびえた様子でそれを見ている舞夢。
  無表情で運転する野呂。

16 響子のマンション駐車場
  
響子が重いスーツケースを抱えて現れる。
  白いワーゲン・ゴルフのトランクに詰め込む。
  機嫌が良く鼻歌など歌っている。
  衣装はすでにトロピカルな薄着にコートを羽織っている。

17 同・響子の手元
  
パスポートを二通ある事を確認する。

18 瀬戸山の車
 
 猛スピードで飛ばしている。
  『成田空港まで20キロ』の標識を通過する。

19 同・車内
  
舞夢、勇気を奮って、
 舞夢「オジサン達誰なの」
 瀬戸山「(面倒くさそうに)ガキは知らなくても良いんだよ」
 舞夢「ボクはガキじゃない」
 瀬戸山「じゃなんだ。毛も生えてないくせに、ハハ」
 舞夢「…………子供扱いすんなよ、ジジイ」

20 高速道路・響子の車
  
あまり運転をしないらしくを安全運転している。

21 同・車内
  
CDの曲に会わせてクリスマスソングを思わず口ずさむ。

22 高速道路
  
突然、トレーラーが追い越しをかける。
  焦って急ブレーキを踏むが、バランスを崩し、一回転スピンしてガードレールに突っ込む。
  ボンネットが開き、車は大破する。

23 同・車内
  
運転席には響子が気を失っている。
  助手席には崩れたクリスマスプレゼントの包みの山

24 田口法律相談所
  
寂れた街の一角のビデオレンタルショップの入ったビルの二階にある狭い事務所。
  少ない応接セットと、机で構成されていて無駄な部分がない。経営者の個性を感じさせるものはない。
  窓だけは大きく、冬でもやたら日当たりがよい。
  書類や本類がきちんとキャビネットにしまわれて整理整頓されている。
  窓を背景とした机に眼鏡をかけた一人の小柄な口髭の男が座っている。田口良一(55)だ。
  ラジオからは、競輪の中継が聞こえる。
  室内暖房の暖かさで先ほどから眠そうである。
  急に鳴りだした電話を取る。
 田口「金なら無いぜ、来年まで待って、一発当てるからさ。おう、お前か」
 電話の声「田口さん、どうなってるの?」

25 成田空港の立体駐車場
  
空港ターミナルに隣接する立体駐車場。公衆電話で話す瀬戸山。後ろで野呂が車を駐車スペースに入れてある。
 瀬戸山「もう二時間立つけど、お客さんいっこうに来ませんよ」

26 田口法律相談所
 
田口「そんなはずはないんだけどな。場所間違えてないか。おまえそそっかしいからな。
   この前も箱根と箱崎間違えたしな」
 瀬戸山(声)「あれは3年も前でしょう。勘弁して下さいよ」
 田口「お客に電話しとくから五分後に電話をくれ」
  と田口はファイルを取り出し電話をかける。

27 机の上の携帯電話
  
呼び出し音が鳴るが誰も出ない。
  しつこく鳴り続ける。
  手が伸びて電話を取る。
 田口(声)「もしもし、私、田口です。田口法律相談所でございます」

28 田口法律相談所
  
男が急に叫ぶ声が聞こえる。
 男(声)「た探偵さん。あの時の?助かったあ」
  と泣き出す。
 田口「もしもし、奥さんはどこにいるの」
 男(声)「妻は寝ています。重傷なんです」

29 病室
  
病室で携帯電話を握りしめている佐野原。
  真っ白な殺風景な病室。ベットに横たわる響子。手と顔に包帯を巻かれて眠っている。
 佐野原「あ、あの……、舞夢が誘拐されたんです。どうしたらいいか分からないんです」
   田口(声)「警察には、もう連絡しましたか」
 佐野原「い、いえまだ犯人から連絡がないものですから。あ、あと妻が飲酒運転らしかったものでつい……、
    警察には言いたくないんです。スキャンダルになるのは避けたい」

30 田口法律事務所
  
電話を受けながら、
  田口、昔のファイルの頁をめくって佐野原の名前を見つける。
   『依頼事項 離婚調停用、佐野原純一氏の素行調査』の文字が飛び込んでくる。
   『佐野原純一・建築会社社長。長男舞夢は彼が養育する』
   『依頼人・戸坂響子。建築家。結婚歴2回。前々夫との間に一子あり。(長男・舞夢)』
   『前々夫現在行方不明』
   『結果・素行に怪しき点は無し』
   『但書・響子に素行の点で問題有り』
  数点の写真。男たちに囲まれて女王のように気ままに振る舞う響子。
   『養育権を失う恐れ有り』
   『同件を極秘で佐野原純一氏にも報告(別途収入あり)』
  別ファイルの今日のページを開くと、
   『佐野原響子よりの依頼事項』に極秘のスタンプ。
   『長男舞夢の誘拐。成田空港までの輸送』
   『海外への移住の予定』

     
その間も会話は続く
 田口「奥さんはどんな様子。三、四日動けないでしょう。
   どうでしょう私んところにすべてを任せませんか。考えといて下さい」
  と電話を切る。
  田口、机の中から電卓を出し、計算をする。
  しばらく考えて、部屋を行き来する。薄くなったアタマの髪をかきむしる。
  決心したように、ハンカチで受話器を包み鼻を摘み、電話をかける。
 田口「オタク様の子供を誘拐した。金を明日までに二億円用意するんだ」

31 空港ロビー
  
免税店のゲーム機で遊ぶ舞夢と無口。
  夢中になっている舞夢。それ以上に熱くなっている野呂。
  瀬戸山。再び電話をかける。
 瀬戸山「野呂、いい加減にしろ。もしもし」

32 田口法律相談所
 
田口「遅いぞ。なにしてたんだ」

33 空港ロビー
 
瀬戸山「なにしてたって、そっちが長電話でしょうが」

34 田口法律相談所
 
田口「仕事に都合悪いこと出来て予定変更だ。ともかく明日まで子供を預かっとけ。お、電話が入ったまた後でな」
  キャッチホンを取って、
 田口「もしもし、田口でございます。え、なに誘拐犯人から電話がそれで・・。分かりました後ほど伺います。
   大丈夫ですよ。私が保証します」

35 空港ロビー
  
受話器を置く瀬戸山。
  遊んでいる無口の野呂を呼ぶ。
 瀬戸山「迎えは来ないけど予定通り俺は帰るぞ。何か文句はあっか」
  野呂、首を振る。

36 出発ロビー・手荷物検査所の前
  
切符を手にした舞夢を座らせて
 瀬戸山「いいか、もう少ししたら迎えの人が来るからな。何にも心配すんな」
 舞夢「オジサン優しいんだね」
 瀬戸山「オジサンにも君と同じ年頃の子供がいたのさ。じゃあな」
 舞夢「サイナラ。ありがとう」
  手を振って別れる瀬戸山らと舞夢。

37 空港ロビー外・薄暮
  
暮れかかる空に消えていくジェット機。

38 立体駐車場
  
先を歩く瀬戸山。後からついてくる野呂。
  瀬戸山振り返って
 瀬戸山「野呂、言いたいことがあったら言え。さっきから背中を刺すようなチクチクしたな視線やめろ。
     気味悪くてイヤだ」
  野呂、黙って首を振る。
 瀬戸山「嘘つけ。でもどうすれば良かったんだ。俺たちの仕事はガキを捕まえて迎えに渡して
     飛行機に乗せるまでだったやろ。
     家連れて帰って風呂でも入れてメシでも食わせろっていうのか?」
  野呂、頷く。
 瀬戸山「アホくさ。俺はガキが嫌いなんだ。もう、面倒な家族ごっこはこりごりだ。
     とっとと新しい車見つけろ。外車がいい外車だ」
  野呂、ポケットから合い鍵を取り出し手近の車のキーロックをはずす。
  途端に、懐中電灯の光が瀬戸山たちの顔を照らす。
  凍り付く瀬戸山と野呂。
  五、六人の警備員に取り囲まれる。
 瀬戸山「いや!あの、逃げませんから」
 警備員A「は?何をしてるんですか」
 瀬戸山「すいません。すべては俺一人の罪や。こいつは関係ない言われた通りにやっているだですから」
 警備員B「ダメじゃないか、自分の子供を置き去りにしちゃ。誘拐でもされたらどうするつもりだ」
  警備員の後ろから舞夢がニコニコして現れる。
  唖然とする瀬戸山達。
 警備員A「それじゃ我々はこれで」
 舞夢「どうも有り難うございました」
  とぴょこんとアタマを下げる。
  警備員達を見送った後、舞夢の頭を軽くはたく瀬戸山。

39 首都高速道路・夜
  
年末の道路路の混雑に巻き込まれてノロノロとしか進まない道路。

40 車・車内
 
 狭いミニクーパーの中に、三人。
 瀬戸山「どうして戻ってきたんや」
 舞夢「パパに電話したの。そしたらボク誘拐されたんだって?」
 瀬戸山「警察は知ってるのか」

41 首都高速道路・夜
 
 突然、猛スピードで測道を飛ばす野呂。一目散にランプから一般道へ向かう。

42 車・車内
 
 ひっくり返る瀬戸山と舞夢。
 瀬戸山「あわてんな。(舞夢に向かって)本当のことを言えよ」
 舞夢「だってパパ泣いてたよ大丈夫かって。だから明日には帰るっていっといたよ」
 瀬戸山「もう今日帰れ、いますぐ帰れ」
 舞夢「いいの?オジサン達お金が欲しいんじゃないの」
 瀬戸山「カネはあった方が良いけど、俺はお前のようなガキが大嫌いなんだよ」

43 一般道路・夜
  
走り去っていくミニクーパー。

44 田口法律相談所・夜
  
下のレンタルヴィデオ店は人が入って繁盛している。
  薄暗い部屋に田口が待っていると、息を切らせて佐野原が入ってくる。
 佐野原「田口さん。さっき息子、舞夢から電話が入りました」
 田口「どこから」
 佐野原「それが安全だと言うんです」
 田口「犯人は、よほどドジな二人か。その上に優秀な男がいるかだな」
 佐野原「はあ?息子は戻ってくるんでしょうね、お願いしますよ」
  田口、密かに電話のリダイアルボタンを押す。再び携帯電話の番号が呼び出される。

45 病室
  
暗闇の中、呼び出し音だけが執拗に響く。

46 田口法律相談所
  
電話がつながる微かな音がする。
  田口は、佐野原に気が付かれないように受話器を隠す。
 田口「ま、誘拐は特に子供の誘拐は非常に悪質な犯罪ですから、誰がどんな事情だろうと許すことは出来ません。
    これは私の信念です」
  と、受話器を持ち上げ耳に当て佐野原に言う。
 田口「はい、田口です。(佐野原に)ちょうど、病院から奥さんから電話が入りました。意識が回復した様子です」
  佐野原、受話器をひったくり泣きじゃくる。
 佐野原「響子、響子、響子さん。うん、いいんだ。田口さんがそうだあの田口さんが助けてくれるんだ。
    じゃあすぐに行くから(田口に向かって)すいません、響子の具合が心配なのですごく怯えてるようなので
    病院に帰ります」
  慌ただしく出ていく佐野原。
  それを見送って田口は再び電話口に向かって
 田口「聞こえましたね奥さん」

47 病室
 
 ベッドから起き上がり、身体を固くして受話器を握りしめている響子。

48 川沿いの古い公団アパート・深夜
  
荒川沿いにある五階建ての公団アパートが数棟並ぶ。
  古く汚いが団地だが、住んでいる人々の生活の臭いが濃密に漂っている。
  既に時間が遅いためかほとんどの部屋の電気が消えている。
  闇の中をゆっくりとミニクーパーがやってくる。

49 車内
  
車を降りる瀬戸山と舞夢。
  車に残る野呂。
 舞夢「何で、降りないの」
 瀬戸山「車が好きなんだ」

50 団地の一室
 
 階段を上り三階の一室のベルを鳴らす。
  しばらくしてドアが開く。
  タバコをくわえた中年の女性が出てくる。神崎道代(40)である。
 瀬戸山「やあ。この子を今夜だけ泊めてくれないか」
 道代「どこで拾ったの。まさか誘拐してきたの」
 瀬戸山「そうさ。高いんだこのガキ」
 舞夢「本当だよ」
 道代「どこで作った隠し子か知らないけど口の聞き方教えなさよ。
    そうやっていつの間にか人んちは入り込んで居座るようになる
   ドラ猫みたいにね。入りなさいよ」
 舞夢「こんばんわ。おじゃまします」
  笑う道代。

51 同・台所
  
狭いがきれいに片づいている台所。
  椅子に座って勉強している妙子(8)が瀬戸山を睨む。
 妙子「また来たの。お酒は店で呑んでね。それから静かにしててね、勉強中なんだから」
 瀬戸山「いいじゃないの。おい自己紹介しろ」
 舞夢「佐野原舞夢。三年生」
 妙子「自分の将来のこと、真剣に考えている?」
 舞夢「え?」
 妙子「今から真剣に考えとかなきゃダメよ。そうでなきゃこんな風になってからじゃ遅いんだから。
    最後、頼りになるのは自分だけよ」
 道代「この、きついの誰に似たんだろうかな」
 瀬戸山「妙子ちゃん。器量も女の内だよ」
 妙子「バッカみたい。(舞夢に向かって)騙されないで!バカな大人と遊んでないで私の部屋に来なよ」
  妙子と舞夢が隣室に去る。
 道代「本当の所どうなのさ。事件?」
 瀬戸山「ああ、面倒なことに巻き込まれたようで、簡単な仕事で今年は終わるはずだったのが
     明日まで長引きそうなんや」
 道代「田口のところの仕事。あれはやめた方がいいよ、やばいし、安いしさ、
    向こうもあんたのことよく知らないんだろう」
 瀬戸山「でも、一度離婚する旦那の素行調査を一週間したことあるけどな。同じ仕事と聞いてたけど
     今度はガキ相手だったわけだ」
 道代「危ないことはやめてね。ねえ、終わったらどっかグアムでもいこうよ。お金入るんでしょう」
 瀬戸山「まあね。親子で行ったらいいさ」
 道代「ダメよ。貯金するというに決まっているわ。誰に似たのかしら」
 瀬戸山「そろそろ父親のこと話さなきゃいけないんじゃないか」
 道代「あなたがパパで良いんじゃない」
 瀬戸山「冗談だろ。俺にも昔は大事な女房とガキがいたのさ」
  タンスの上に、簡単な仏壇と男の遺影。

52 病室
  
響子の病室。佐野原が飛び込んでくる。
 佐野原「金は作るよ。これでやり直そう響子。完璧な家族になれるんだ」
  しかしベッドは無人。

53 タクシー・車内
  
包帯を巻いた響子、前方を見つめている。

54 田口法律事務所
  事務所を閉める田口。
  
響子が階段を上がってくる。
 田口「依頼人の登場だな。正確に言うと元依頼人の」
 響子「舞夢を返して。どんなに悪い母親でもアタシは世界で一番舞夢を愛してるの」
 田口「話は事務所じゃダメだ、あんたと二人きりでいるのは一秒でもごめんだね」

55 ヴィデオショップ
 
 深夜にもかかわらず人がたくさんいる。
  ヴィデオの背ラベル『素晴らしきかな人生』を見て手に取る田口とその後を追う響子。
 田口「この映画見た?面白いのかなあ?」
 響子「ねえ、どうすればいいのよ。警察に言うわよ」
 田口「言えるか。誘拐の主犯がさ裁判に負けそうなんで子供を連れ去ろうとする女が。
  カネも払ってくれるそうじゃないか。裁判でも養育費取れたんじゃないの。素行さえひっかからなきゃねえ」
 響子「……」
 田口「佐野原は今もあんたにぞっこんだぜ」
 響子「あんな外ヅラだけのナルシスト。自分の体面しか考えてない最低の男よ」
 田口「最低の男ね。そんなタイトルあったら今日は借りたい気分だ。へへへ、まあ明日まで待ちなよ」

56 タクシー・車内
  
響子が呆然としながら乗っている。

57 住宅地区にあるマンション
  
響子の住まい。
  タクシーから降りる響子。

58 同・ドア〜室内
  
響子が鍵を差し込もうとするとドアが開いている。
  そっと入ると人の気配がする。
  悲鳴をあげようとすると、
 佐野原「ボ、ボクだ、驚かないで」
 響子「まあ、どうしたの。合い鍵まだ持ってるの」
 佐野原「いいや、開いてた」
  と手に持っていた鍵を隠す。
 響子「そう、あわてて飛び出したからね」
  響子はそう言うと涙ぐむ。
  佐野原、響子の隣に来て肩を抱く。
 佐野原「心配したよ。病院に行ったらいないし、警察に飛びこんだんじゃないかと思った」
 響子「ただ、病院の空気が合わなくて、ごめんなさい、心配させてしまって」
 佐野原「いいんだよ。今回のことも優しい君にはつらいだろう。こんな誘拐なんて、考えた奴は許せない。
     この場にいたら殺してやりたい」
 響子「分かるわその気持ち充分に。ねえお金、身代金はどうするの。私にも少し払わせて頂戴」
 佐野原「ボクのせいだ、ボクが不甲斐ないからこの事件は起こったんだ。
     だから子供の身代金はボクに払わせてくれ。いいね。
    これはボクが君をまだ愛していることのささやかな証だ」
  響子、佐野原の顔をじっと見つめて、
 響子「ホント?あなたは私のことを考えてくれる、なんて最高の人なの!」
  響子は佐野原に抱きつく。

59 同・寝室
 
 響子、ベッドに横たわる。佐野原は服を着ている。
 響子「ねえ、本当にお金あるの。先月の設計費まだ入金してないでしょう」
  佐野原微笑んで
 佐野原「大丈夫だよ、それくらいなんとかなるさ。キミとやり直せるなら」
 響子「舞夢もね」と独り言を呟く。

60 佐野原の車・車内
  
無表情の佐野原。
  何かを真剣に考えている様子。

61 ビジネス街のオフィス
  
その一室に明かりがつく。

62 同・室内
  
佐野原が入ってきて、金庫を開ける。その他の書類をひっくり返し、
  スーツケースの中にあるだけの札束を詰め込む。
  しかし、鞄の半分も埋まらない。
  鞄をひっくり返し、もう一度中身を出す。
  しばらく考えた後、新聞紙を取り出し一万円札の大きさに切り出す。

63 アパート
 
 舞夢と妙子が寝ている。

64 アパートの外
  
車の中で毛布にくるまり完全防寒で野呂が寝ている。

65 田口の部屋
  
ファイルを広げたまま寝ている。

66 佐野原のオフィス
  
次第に山のようになる新聞紙の束。
  一心不乱に切る佐野原。

67 響子のマンション
  
子供のように膝を抱えて眠る響子。
  突然がばっと起きて冷蔵庫へ行きビールを出して一気に飲む。

68 再びアパート
  
瀬戸山眠れずに、音を消して深夜映画を見ている。
  道代、缶ビールを持っきて隣に座る。
 道代「眠れないの」
 瀬戸山「ああ、急に昔のこと思い出してしもうて」
 道代「女のこと?子供のこと?自分のこと?」
 瀬戸山「全部だ」
 道代「嘘、お・ん・な・でしょ。顔に書いてあるわ。そんなにいい娘だったの」
 瀬戸山「昔のことはもう忘れた」
 道代「そうかな?女は強いけどけど、男のアンタは違うんじゃないの男っていつまで経っても進歩しないモンだよ。
    じゃあお休み」
 瀬戸山「そういうもんかねえ。それじゃ猿と一緒だ」

69 東京の夜景
  
明かりの消えた高層ビル。

●十二月二十七日

70 水族館
  
翌日、寒い朝。
  都心から外れた海沿いにある小さな水族館。

71 同・地下駐車場
  
ミニクーパーの中に瀬戸山、舞夢、野呂の三人が座っている。
  瀬戸山が時計を見て、
 瀬戸山「行こか」

72 水族館入り口のコーヒーショップ
  
こちらには、田口、佐野原、響子の三人が座っている。
  田口がイライラしている。
 田口「(佐野原に)何で奥さんを連れてきたんですか」
 佐野原「だって、僕らの子供ですよ、二人で話して決めたんです」
  二人は肩を寄せ合い、響子は微笑む。
  田口は舌打ちをする。
 田口「まあいいだろう。カネは持ってきたでしょうな」
  佐野原、鞄を差し出そうとする。
  響子がその手を押さえて
 響子「舞夢の顔を見てからよ」

73 水族館の中
  
中は薄暗く人の顔がよく見えない。
  冬休みのせいか、親子連れでにぎわっている。
  そのあいだをすり抜けるように瀬戸山と舞夢が進み、少し離れて野呂が続く。
 舞夢「どうするの。まだ帰りたくないな」
 瀬戸山「遊び足りないんか。でもいつまでもこうしていられないんや。人間誰でも働かなきゃ食っていけへん。
    な、大人になるんや。いい子だから」
 舞夢「人生、すべてお金だね」
 瀬戸山「ふん、よく言うぜ。このくそガキは」
  次々に現れる水槽に泳ぐ魚たち

74 水族館入り口・チケット売場
 
田口「ではここで別れましょう。鞄は私が預かっていましょう」
  佐野原が渡そうとすると響子が阻止をする。
 田口「あなたが私を信用しないのなら、この取引はおしまいだ」
 響子「信用できないわよ」
 田口「いいでしょう、佐野原さんはご一緒に来て下さい。(響子に)あんたは付いてきてはダメだ」
  田口と佐野原は中に入る。
  しばらくして響子も中へ入る。

75 水族館内部
  
ポケットベルが鳴る。
 田口「ちょっと待って下さい。犯人からだ」
  と暗闇に消える。

76 水族館内
  
瀬戸山、受話器を置いて、
 瀬戸山「(舞夢に)ちょっと待ってな。すぐ戻るから」
  と暗闇に消える。
  舞夢と野呂が取り残される。

77 水族館売店
  
アシカのショーをやっている。
  田口と瀬戸山が並んで座る。
  二人してソフトクリームを嘗めている。
 田口「あと十分したら、ガキを入口んところへやれ。母親がいるから大丈夫だ」
 瀬戸山「あの子母親キライと言ってまっせ。
 もし嫌がったらどないする」
 田口「そんなこと関係ない。他人んちの事だ。こっちは仕事だよ仕事」

78 水族館内部・ラッコの水槽
  
響子がさまよいながら歩いている。
  瀬戸山と鉢合わせをする。
 視線を交わす二人。
 響子「久しぶりね。どうしたのこんなところに来るなんて、家族サービスなの」
 瀬戸山「君こそ、家族サービスか?似合わないぞ。俺は仕事中や。ガキは一緒やないのか。元気か?あの子は?」
 響子「変わらないのね、その言い方。あの子とはだって赤ん坊の時から会ってないのに、急にどうしたの…………。
   ねえ助けて、お願い。あの子が、ほんと私どうしていいか分からないの」
  と、瀬戸山にすがる。

79 水族館内部
  
いつの間にか野呂とはぐれて、勝手に歩き回っている舞夢。
  それを見つける佐野原。片手には鞄。
  駆け寄り抱きしめる。
 佐野原「パパ心配したぞ。もう安心だ。怪我はないか。誘拐犯人はどこへ行った」
 舞夢「どっか、行っちゃった」

80 水族館内部・ラッコの水槽
 
瀬戸山「何やて誘拐……舞夢なのか、あのくそガキがなあ」
 響子「そう、インチキ探偵に脅されて困っているの。警察には行けないし、みんな佐野原がいけないの、
   私に舞夢を渡さないからこんな事になっちゃって」
 瀬戸山「いや、大丈夫さ。きっと問題なく帰ってくる。
     でもな、お前のそういう自分勝手なつまらん思い込みが原因や」
 響子「何言ってるのよ、こんな時に説教?父親らしいこともしたことないのに偉そうなこと言わないで頂戴」

81 水族館内部・裏側
  
佐野原が舞夢を連れて開いているドアから、飼育水槽の部屋へ入ってくる。
  ポンプの音、水の流れる音でうるさい。
  しかし人気はない。
 舞夢「ここに何かあるの。誰もいないよ」
  佐野原、顔面蒼白である。
 佐野原「舞夢、父さんのために死んでくれ。お前がいなくなれば保険金が入って響子とも上手くいく。
     会社の金は渡せないんだ。
    な、だからここで死んでくれ」
  と、舞夢を捕まえ水槽に沈めようとする。
  もがく舞夢。佐野原に噛みついて反撃。
 佐野原「痛ッ、舞夢、お前はオレの子供じゃないんだ」
  舞夢は這いあがって、反対に佐野原を突き落とす。

82 水族館内部
  
瀬戸山と響子の目の前の水槽に落ちる佐野原。
  次第にまわりに人が群がる。
  同時に、それまで隠れていた刑事達がどっと現れる。
  半狂乱になる響子。
  こっそりと逃げる田口。

  
その横の扉からずぶぬれの舞夢が鞄を引きずって出て行く。

83 水族館内部
  
瀬戸山は舞夢を捜す。どこにもいない。

84 地下駐車場
  
あきらめて、地下に降りると音もなく一台のRV車が止まる。
  中に野呂と毛布にくるまった舞夢。
 舞夢「………帰りたくない。パパはパパじゃ無かったんだ。ボクのパパは誰なの」

85 高速道路を走る車
  
ただひたすら東京から離れる車。
  眠っている舞夢。

86 小都市の郊外のニュータウン
  
舞夢が目覚めると、同じ様な形の住宅がどこまでも続いている。
 瀬戸山「確かこの辺りだ。お、ここだな。渡部常次」

87 渡部家・リビング
 
渡部「何もないけど、まあゆっくりしてきなよ」
  渡部常次(42)の家には見事に何もない。
  家族も顔を見せない。
  二人は炬燵にあたりながら、
 瀬戸山「知り合いの子をちょっと訳ありで預かってるんだ」
 渡部「ふーん、瀬戸山さんにもこのくらいの子どもがいるんじゃないの?」
 瀬戸山「お前んとこどうしたんだ。現場から足洗って地道に車のディーラーやってんだろ」
 渡部「いやとっくに終わったよそんな生活は。ローン地獄、リストラ、破産。週刊誌の見出しみたいだよ。
   金の切れ目が縁の切れ目って奴ですかねえ、銀行の奴以外は、近頃誰も来ないぜ」
 瀬戸山「ひと事だな。いいのかよ」
  隣の間の戸が開き、渡部の妻が手招きをする。
  渡部が出ていくと、隣の間で口論が始まる。
  やがて、渡部の妻と子どもが出ていく様子。

  入れ替わりに、外で遊んでいた舞夢が入ってくる。
  舞夢、部屋を見回して、
 舞夢「ボクンチみたいでなんにもないね。全部ママが持ってっちゃったんだよ」

  渡部、部屋に戻ってくる。
 瀬戸山「別れたのか………。」
  微かに頷く渡部。
 瀬戸山「見送らなくともいいのか」
 渡部「向こうも、こんな顔もう見飽きただろう」
  とごろりと横になる。

●十二月二十八日

88 同・リビング
  
渡部は昨日のまま寝ている。
 渡部「働いて働き通して、残ったのが借金とこの人のいない家だけだ。広すぎて綺麗すぎるよ」
  瀬戸山、そっと出ていく。

89 国道
  
田舎のバイパスをどこまでもあてどもなく走る車。

90 ドライブスルーのファースト・フード店
  
夕方近くなったがそれほど混雑はしていないどこにでもある店。奥には客席がある。
  三人は車に乗ったまま注文をする。
 女の声「いらっしゃいませ、ご注文は……またあんたぁ、何すんだよ。スケベオヤジ」
  奥の客席で物音がする。
 男「何だ、その態度は」
  好色そうな中年男が少女の腕を掴んでいる。
 声「こうしてやる」と男にハンバーガーやコーラが飛ぶ。
  声の正体は店員の少女、花輪美樹(17)である。
  やがて厨房から人が出てきて止めようとするが、振り切ってオヤジに蹴りを入れる。
  素早く厨房に消えていく少女。
 店長「何で毎回毎回問題を起こすのかね。少しは静かにしてくれ」
 美樹「しょうがないじゃん、問題優良児だもん」
 店長「人手不足で働いてもらっているが君の方からどうしても辞めたいというのならな……」
 美樹「いつでも辞めるよ、こんなダッサイとこ」
 美樹、裏口から出てくる。
 中年男が追いかけて出てくる。
 美樹、とっさに手近にあるごみ箱をひっくり返して、素早くRV車に乗り込み身を隠す。
 美樹「さっきはどうも。とりあえずさ。どっか近くまで乗っけて」
  
嫌な顔をする瀬戸山。それに構わず車のドアを開く舞夢。

91 走る車・車内
  
夕暮れが迫っている。
  パトカーとすれ違う。
  瀬戸山と野呂が視線を交わす。
  美樹が後部座席で、
 美樹「あのバカ、また警察呼びやがった。さっきのスケベオヤジって教育委員会の偉いおっさんなんだぜ。
    また停学か退学かな」
  と、ポケットからウイスキー瓶を取り出して呷る。
 瀬戸山「どこまで行くんや」
 美樹「別に。学校も休みだし、東京行くんだったら一緒に連れてってよ」
 瀬戸山「いや東京へはしばらく行かへん」
 美樹「あ、そう。じゃあどこ行くの家族旅行?」
 瀬戸山「………………」
 舞夢「(不機嫌に)誘拐だよ。お金がいっぱいあるから好きなところへ行けるよ」

92 河原・夜
  
川面に高速道路の水銀灯の明かりが反射している。
  後部トランク室を開ける。
  舞夢、鞄を出す。
  しかし開けない。
 美樹「見せてよ。一億円」
 瀬戸山「開けないんか。身代金」
  舞夢、全員を見回して、
 舞夢「開けない。開けたら何かみんな消えちゃうような気がするんだ……だから開けない」
 美樹「じゃあ、どうするの」
 舞夢「………………」
 瀬戸山「返すか」
 舞夢「(首を振る)」
 瀬戸山「捨てるか」
   舞夢「(首を振る)」
 瀬戸山「使うか」
 舞夢「(首を振る)……仕事、仕事してよ、パパを捜してホントのパパをさ、仕事ならお金を使ってもいいでしょ」
 美樹「そりゃ、いいんじゃない」
 舞夢「じゃあ、決まりだ」
  瀬戸山一人考えている。

93 モデルハウス・深夜
  
国道から少し外れた建て売り住宅地区。モデルルームが一軒立っているだけで後は何もない。
  三人が車を降りて中に入り、しばらくすると電気がつく。

94 同・居間
  
こっそりと座り寛ぐ三人。
  舞夢は鞄を抱えている。
  設置してあるこたつに入る。
  舞夢、中を探検して戻ってくる。
 舞夢「家の形だけで、中には何にもないよ。やだなこんなとこ」
 瀬戸山「何贅沢言ってるんだ。屋根があればいいじゃないか」
 美樹「発想が貧困ね。どこに行くつもり。それともずっとこのまま旅するの」
 瀬戸山「うろうろしていてもしようがない。あまり見つからないところ。十年近くも行ってないがあの村に行こう。
    (舞夢に向かって)山の中へいこう、今ならまだ鹿も見られるだろうし、見たことないだろう。
    もっと寒くなると雪が頭の上より深く積もるんだ」
 舞夢「ケッテーだね」
 瀬戸山「明日は朝早いから早く寝るんだ」
  舞夢は、二階の寝室に上がり寝る。
  野呂は相変わらず車の中で寝ている。

95 東京・田口の事務所・深夜
  
三人が所在なさげにソファーに座っている。
 田口「なんでこんな風になるんだ」
 響子「お金は渡したんでしょう」
 佐野原「……」
 響子「犯人の手がかりがあるでしょう田口クン」
 田口「だから何回も行ってるように私も騙されたんだって」
 響子「そうかしら(と言いながら気づく)」
 佐野原「キミは無能だ。クビだ。ボクは警察に行く」
  と言い残して出ていく。
  響子は田口の横に座り、田口の手を握る。
  田口、離れようとする。
 響子「今度はもう一度私が雇うわ。犯人はあの男なのね」

96 同・居間
  
瀬戸山と美樹。こたつの上に酒瓶が並んでいる。瀬戸山はすごく酔っぱらっている。美樹はけろりとしている。
 美樹「へー不思議な話。で舞夢クンはどっちが好きなの?でもさ、オッチャンさ、肝心なこと隠してるでしょう」
 瀬戸山「いやこれで全部だ」
 美樹「嘘。もっと簡単にあの子だって置き去りにしたって良かったのに連れて歩いてる理由を言いなさい」
 瀬戸山「……」
 美樹「息子なんでしょう、舞夢クン」
 瀬戸山「それを言った方がいいのか言わん方がいいのか」
 美樹「それは、あたしにもわかんないね。ゆっくり考えれば。お休み」
  二階に上がる美樹。
  一人取り残される瀬戸山。こたつに横たわる。なかなか寝付けない。

97 モデルルーム・外
 
 明かりが消えて真っ暗。

98 田口法律相談所・深夜
  
明かりが消えて暗い。
  ソファに横たわる田口。
 田口「瀬戸山とは知り合って十八年近くか。ずっと昔、現場監督してるときからな。部下の一人がクレーンに
    押し潰された事故の時、全部一人で責任被って格好良く辞めたんだってな。あんたも現場にいたんだろ」
 響子「会社の責任者としてね。」
 田口「女と別れた後だって聞いてたが、あんただったとはね。自分の子供を誘拐するなんてね。これは犯罪かな」
 響子「今日会ったのが八年ぶりよ。まさか探偵してるなんて思わなかったわ。変わっちゃったのねみんな」
  いつの間にか田口は眠っている。風邪を引かないように上着を掛けてやる。
  田口の机からファイルを抜き出し、部屋を出ていく。

99 同・廊下
  
ヴィデオレンタルショップはもう閉店している。ヒールを履いてコートを着込んで去る響子。

●十二月二十九日

100 幹線道路の移動
  
翌朝、モデルハウスを後にする一行。
  少しずつ山の中に入っていく車。
  野呂は舞夢を膝の上に座らせて運転の練習をさせる。
  途中、大型の産業廃棄物を満載したトラックと何回もすれ違う。

101 露店
  
幹線道路沿いの店『食事処』と書いてある。大型トラックの間に駐車する。
  大人に混じって食事をする舞夢。
  美樹は外でウイスキーを引っかける。
  にわか雨が降ってくる。

102 山中の道
 
 雨上がりの道を、峠を越えようとカーブを切ると、虹が見える。
 舞夢「本物みたい、きれいだ」
 瀬戸山「あの虹のふもとや」

103 村全景
  
昼過ぎに、ある村に着く。死んだような静けさ。
  さらに細い山道を進むと、突然一軒の山荘が現れる。

104 山荘・外
  
ひっそりとして人気のない建物。
  瀬戸山達が近づくと中から犬が出てきて瀬戸山になつく。
 声「その犬は知らん人には噛みつくぞ」
 山荘の階段に一人の白い髭の老人が立っている。

105 山荘・中
  
老人は山荘の主、山辺伊太郎(72)。
  赤々と燃える暖炉の前に瀬戸山、美樹、鞄を抱えた舞夢が座っている。
  料理を運んで老婆がやってくる。山辺キミ(62)。
 キミ「あの、車に乗ってる人、幾らなんでもここでは寒くて凍え死んじゃうわ。中に入るように言って頂戴」
 舞夢「ボクが言って来る」
  舞夢が去る
 伊太郎「瀬戸山、何年ぶりかな。十年くらいか。私は彼女を見て十年間前に戻った気がしたわい」
 瀬戸山「まさか。あれから何か変わった事ありまっか」
 伊太郎「何にもないな。近頃東京の車が少し増えたくらいだ。でも今ではテレビも電話もある生活だよ。
    どう強がっても人間、便利さと寂しさには勝てないからな」
 瀬戸山「年齢にもね」
 伊太郎「そんなことはない」
  笑うキミ。

106 風呂
  
離れの広い風呂に、伊太郎と瀬戸山。
 瀬戸山「山辺さん、父親になるってどういうことですかね。遊んでやることですかね」
 伊太郎「ワシにも一人息子がいてな。ワシも結構、若いころは放蕩していてな。あまり家に帰らなかった。
    そいつが8才の時大病してな生きるか死ぬかの時も帰らなかった。直った時に家に戻ったけど、
    喋れんようになっていた。それからは、向こうもワシを避けるようになった。どこかにいった記憶もない。
    そのうちに戦争が始まって空襲で死んだがね。
    父親っていったって、子供がいて父親させてもらっているようなもんだろう、
    自分の都合のいいときだけ父親やるなんてずるいもんだな。ま、ありのままの自分てやつを見せるんだな」
 瀬戸山「ありのままね」

107 山荘・夜
  
二階の舞夢の部屋に伊太郎が来る。
 伊太郎「舞夢君、外に出て見ないか」
  舞夢、壁の絵を指さして
 舞夢「この絵、ママのところで見たことあるよ」
 伊太郎「うちのばあさんの書いた絵だよ。さあ行こう」

108 山荘・外
  
真っ暗の中懐中電灯の明かりを頼りに歩く二人。
  しばらく行くと視界が開けた場所に出る。
 舞夢「どこいくの」
 伊太郎「ここだ」
  懐中電灯を消す。
  と、空一面が満天の星空。
  言葉を失い空を見上げる舞夢。
 伊太郎「きれいだろう。ここがワシの知っている世界で二番目に美しい風景」
 舞夢「一番目は何?」
 伊太郎「ずっと昔、東京にいた頃見た景色、何もかも上手く行かなくて遊んでて夜中に酔っぱらってな、
    東京湾の釣り船に間違って乗ったまま寝たんだ。寒くて、気がついたら船が流されて沖に出ていたんだ。
    これはしまったと思ったがもう遅い。このままどこまで流れて行くんだ、助からないと思って
    眼がさめてしまった。どうしようと考えているうちに、しばらくすると、風も潮もぴたっとなくなって
    東の空が赤く赤くなってきたと思うと太陽が昇ってきた。静かに静かに、そのうちに空から、
    海から真っ赤に染まってお日様の光と暖かさが伝わってきた。
    何とも言えない暖かさだった。その時さ、なんかこうやり直せるんじゃないかなと思ったのはだな」
 舞夢「それでどうしたの」
 伊太郎「どうしようもしないそれだけだよ。日が昇ってきたらハゼ釣りの漁船に助けられたのさ」
  満天の星空。

109 山荘・外
  
考え込む舞夢。
 舞夢「おじいちゃん。帰るよボク」
 伊太郎「里心ついたのか。まあ焦らないで遊んでいきなさい。おっと」
  伊太郎、急に懐中電灯を消す。
  離れの風呂である。
  伊太郎と舞夢が顔を近づけると美樹の入浴姿が見える。
 伊太郎「まあこんな楽しみしかないけれどな、舞夢」
 美樹「誰!」
  声に引き続きお湯が飛んでくる。
  びしょぬれになる二人。

●十二月三十日

110 山並み・朝
  
山荘から見た雄大な山の風景が広がる。

111 山荘・屋内
  
伊太郎の後ろをついて回る舞夢。猟銃を見せてもらう。
  瀬戸山が来て、
 瀬戸山「舞夢くん、ちょっと一緒に山へ行こう
 舞夢「いや、ここにいる」
 伊太郎「行って来なさい。帰ってきたら兎の撃ち方教えてあげるから」

112 山荘・外
  
車には既に美樹が乗っている。
 美樹「大丈夫、邪魔しないから。ただ外でお弁当が食べたかったのよ」
 瀬戸山「メシ何ぞ他のとこで食えばええやんかか。それに俺は運転できへんぞ」

113 山道
  
未舗装の狭い道を歩く三人。時折来るトラックとすれ違う。
 美樹「この先に何があるの」
 瀬戸山「十年前に俺が作ったもんや」

114 山道
  
行き止まりになり、大きなフェンスで仕切られた場所に出る。
  そこは見渡す限りの巨大なゴミ捨て場。
  看板には『大型塵処理施設』と書かれてある。
 瀬戸山「(舞夢に向かって)ここや。十年前にここで働いたんやで。このごっつうでかいごみ箱を作るために
     来たんや」
  見渡す限りのゴミ。かすかに異臭がする。
  トラックが大型ごみを捨てては帰る。
 瀬戸山「大きさは5千ヘクタール。後楽園球場の……」
 舞夢「つまんないよ帰ろうよ。ここきれいじゃない」
 瀬戸山「こら、汚いって何や。仕事にきれいも汚いもあるか。銭を稼いで食べるためやないか、
     家族と生活するためやないか。
    そんなこともわからんのか!」
 舞夢「パパみたいなこと言わないで、銭だなんてキライだよおじさん!」
  と走り去る。
  ゴミ捨て場の片隅に捨てられた模型。
 美樹「オッチャン、ここを見せたかったの」
 瀬戸山「いや別に」
 美樹「大きな声が出せるからって、それだけじゃあ子供は簡単に尊敬してくれないよ。
    今更どういう顔してパパだと言うの?やめときなよ」
 瀬戸山「しかし事実、俺はオヤジやし……」
 美樹「家族のために何したの、でなきゃあたしだってお酒なんか飲まないわよ。
    おいしくて飲むわけでもないし、酔っぱらいたいから飲むんじゃないわ。なんか欠けてるのねきっと。
    舞夢に同じ思いさせないで、パパさん」

115 山荘・居間
  
電話を掛けているキミ。
 キミ「そうですか、来ますか。一家団欒できるわね、久しぶりに」

116 響子の部屋
  
壁にキミの絵。
  受話器を置く響子。

117 山荘の居間・夜
 
 美樹、手つかずの料理が乗ったトレイを持って二階から降りてくる。
 美樹「食べたくないんだって。ジャンクフードが欲しいんじゃないかしら」
 伊太郎「疲れてるんじゃないのか。寝させてやれば」
 瀬戸山「見て来ようか」
 伊太郎・美樹「(同時に)行かなくていい」

118 山荘二階・寝室
  
舞夢がベッドで横になって泣いている。
  やがて、きっと決意して起き上がると鞄を抱える。
  カーテンを外しロープにする。

119 同・ベランダ
  
外のあまりの暗さに一瞬たじろぐが、ポケットから懐中電灯を取り出してつける。
  そのまま鞄を地面に放り投げ自分もカーテンを伝わって降りる。
  鞄を抱えて闇の中へ消える。

120 同・庭
  
舞夢、車の中をのぞき込む。毛布をかぶって寝ている野呂。
  その横をする抜けていく舞夢。

121 同・居間
 
キミ「どうしたのみんな静かになって」
  雨の音がする。
 キミ「雨が降ってきたわ」
   窓がバタバタいう音。
 伊太郎「おかしいぞ、戸締まりしたんだがな」
 美樹「あたし見てくる」
    二階に駈け上る。
 美樹「いないわ」

122 山道
  
真っ暗の中雨に濡れながら歩く舞夢。

123 山荘・外
  
車に乗って下を見に行く美樹と野呂。
  歩いて、山に向かう瀬戸山と伊太郎。

124 ゴミ処理場
  
舞夢はフェンスの隙間から中に入り、奥は奥へ進む。
  一番深いところに鞄を投げ捨てる。
  闇の中に散らばる札の雨。

125 車内
  
途中で外車とすれ違う。
  美樹「誰だろう、今頃」

126 山道
  
道を外れないように歩く二人の男。
 伊太郎「このあいだいい忘れたけど、あの話にはまだ続きがある。残された手紙が出て来たのさ。
    そこには、僕のことを思うことは、親自身がしっかりと自分のことを生きてくれないと自分は生きられない
    惨めになってしまうだけだ、と書いてあった。だから、戦争が終わって、ワシらはここに住んだ。
    近頃は文明の利器に毒されているがな。
    十年前に会ったあんたと響子さんはなんか自分を見ている気がしたものさ。ま、人は変わるというけどな」
 伊太郎「女と子供と犬は強い、だから繊細なのかも知れない。人がいつ子供から大人になるなんて誰もわからん」
  ゴミ処理場の入り口にたどり着く。

127 山荘・居間
  
暖炉の前の犬が起きて外に出ていく。

128 山荘・外
  
外車が止まる。
  身構える犬。
  ドアが開くと、犬は飛びかからずに人影に鼻をクンクンいわせてなつく。

●十二月三十一日

129 ゴミ処理場・夜明け
  
ようやく、雨も上がり空が白んできた。
  瀬戸山と伊太郎は、舞夢の名前を呼びながら広いゴミ処理場を探す。
  大きな模型を屋根にして舞夢が座っているのを見つける。
  伊太郎が近づき、額に手をやる。
 伊太郎「風邪を引いたようだ」
  と、舞夢を背に負う。
  瀬戸山が近づくと
 舞夢「来ないで。来てもお金は持ってないよ。帰れよ。インチキ野郎」
 伊太郎「その通りだ。瀬戸山さん、後から鉄砲をかついで来なさい」
  と鉄砲を置いて舞夢と先に去る。

130 山荘・外
  
伊太郎と舞夢が戻ってくると、中から響子が飛び出してくる。
 響子「舞夢!」
  舞夢は既にうわごとを言うだけ。
 響子、瀬戸山を何度も殴りつける。
 響子「舞夢が死んだらどうするつもりだったの。父親ヅラしてなに。あたしを苦しめて」
  響子泣き続ける。
  瀬戸山は無言で立ち尽くす。

131 同・寝室
  
伊太郎が舞夢をベッドに寝かせる。
  佐野原、ズカズカと入ってきて怒鳴る。
 佐野原「カネはどこにやったんだ。舞夢言いなさい。言わないと叩くぞ」
 伊太郎「あんた、見てわからないのか、話せる状態じゃない。今すぐに病院行きだ」
 佐野原「ダメだ。車のキーは渡せない。カネのありかだ。誰が知っているんだ」
 佐野原、全員を見渡す。
 声「俺が教えてやってもいいが、キーを渡せ」
  佐野原、振り向く。
  瀬戸山が鉄砲を構えている。
 佐野原「カネのありかが先だ」
  鉄砲を佐野原に向ける。
 瀬戸山「本気だぞ、早く渡せ」
  佐野原キーを渡す。
  伊太郎と響子は舞夢を連れて出ていく。

132 同・外
  
伊太郎が運転し、舞夢と響子は外車に乗って出ていく。
  後に残った瀬戸山と佐野原。
 佐野原「あんたか黒幕は」
 瀬戸山「黒幕とは何だ、カネはこの上のゴミ処分所の一番深いところにある。早く金を拾いに行けよ」
 佐野原「それはあとでいい。ただお前をなんだかブン殴りたい」
 瀬戸山「俺も初めて会ったお前を殴りたい」
  にらみ合う二人。
  素手で殴り合いを始める。
  大地に転がりなかなか決着が付かない。
 声「もういい加減にして頂戴」
  キミがホースで水を掛ける。
 キミ「まるでサカリの時期にメスを争う鹿のようじゃないの」

133 ゴミ処分場
  
広い敷地の中、札をかき集める瀬戸山と佐野原。
 瀬戸山「佐野原はん。あんた響子のどこが気に入ったの」
 佐野原「いや、私は家族が欲しかったんですよ。で、舞夢共々引き取ったわけです。
     今回のことは所詮女の浅知恵ですな。はははは」

134 同・居間・夕方
  
響子らが帰ってくる。
  憔悴した様子。
 伊太郎「軽い肺炎だ。安静にしていれば治るそうだ。二階で寝かせよう。それより重症なのがいそうだな」
  テーブルの上に鞄を置き、憩いでいる瀬戸山と佐野原。
  佐野原が立ち上がり、
 佐野原「みなさん。僕たちあれから話し合ったんです。今回のことは単なる事故であり、
    色々あったけど誰も困ってない。
    ちょっとした怪我はあったけど、雨降って地固まるってこともあるでしょう。
    それにカネだって無事にここにあるし、何ならみんなで分け合ってもう一度やり直すって言うのはどうかな。
    みんなの関係はそのままでさ。
    それでみんな幸せじゃないかな」
 美樹「オッチャン、それでいいの」
 瀬戸山「いやみんなが良いならいいだろう」
 美樹「呆れた人ね。丸め込まれたの」
 佐野原「不良、黙っていろ」
 響子「二人がそんな風に言ってくれるなんて嬉しいわ。私のわがままから、舞夢には迷惑をかけて……、
   私たちは親なんだからきちんとしないとね」
 佐野原「そうだよ、家族なんだから。舞夢はまだ小さいんだから、そのうちにきっと分かってくれるだろう」
  三人微笑みを交わす。
 伊太郎「ワシにも分からんよ。さてと寝るか、長い一日だった」
  野呂が突然立ち上がると猟銃を持つ。
 野呂「い、い、いい加減にしろよな。友坊は、お、お、俺が誘拐する」
  野呂は舞夢を抱える。
  美樹も立ち上がり、
 美樹「身代金はもらったわ。こんなお金なんか灰になっちゃえ」
  と鞄を暖炉にくべる。
 佐野原「何をする」
  佐野原が暖炉から鞄を取り出す。燃えている札と札束大の新聞紙が居間中に散乱する。
 瀬戸山「危ないやめろ」
  佐野原は聞かない。
  その隙、子供達は外に消え去る。
  やがてカーテンに引火して、居間に火が燃え広がる。
  佐野原、札をかき集めている。火がさらに燃え上がる。
   消火作業が間に合わない。
 伊太郎「危険だ、プロパンガスに引火するぞ」
  逃げ出す人々。

135 爆発炎上する山荘
  
舞夢達の乗った車が出ていく。
  燃えている山荘。
  座り込む伊太郎。
 瀬戸山「すまない取り返しのつかないことをしてしまって」
 伊太郎「……」
 キミ「あなた、燃えちゃったら、また作りなおせば良いじゃない。本当に大切なものだったらね」
  やけどを負い呆然とする佐野原。
 伊太郎「早く行くんだ、まだ間に合うぞ。やり直すつもりなら」

136 RV・車内
  
放心したように車を走らせる三人。
 美樹「どこへ行こうか」
 舞夢「海……」
 美樹「え?」
 舞夢「海に行って、日の出を見なきゃいけないんだ」

137 外車・車内
  
流れる山の風景。
 瀬戸山「キミの設計した現場はもう見なくてええんか」
 響子「十年前のことはそのままの思い出にしておきたいの。十年たった後じゃ、昔のまんまとは言えないわ。
   あら、これは別にあたしたちの事じゃないわよ」
 瀬戸山「やり直せるやろうか」
 響子「わからないわ、誰にも。追いついた時に考えましょう」

138 高速道路のサービスエリア
  
瀬戸山、携帯電話を掛ける。
 声「はい、田口です」

139 田口法律相談所
  
テレビで競輪を見ている田口。
 田口「で、車を捕まえる?なあお前の言うことを断っても良いんだ。なぜ俺が受けると思うのか聞きたいね」
 瀬戸山「だって、俺達がやり直せるかどうかの瀬戸際なんだ。お前にかかっているんだから」
 田口「脳天気な野郎だ。で、幾ら出す?」

140 刑事部屋
  
何もない部屋にテープレコーダがある。
 刑事A「やっと、動き出しました。待った甲斐がありました」

141 外車・車内
  
高速道路を走行する。
 瀬戸山「やり直せるやろうか」
 響子、車を路肩に寄せる。

142 路肩・橋の上
  
下に川が流れている。風が強い。
  響子、車を降りる。続いて瀬戸山も降りる。
 響子「さっきから何回言ったと思う。やり直せるかって」
 瀬戸山「気に障ったなら謝る」
 響子「あたしだって、結論でないわ。どの家族が正しいかなんてないでしょう。ただ走るしかないでしょ。
   一緒に走ってくれないのならあたしは一人で行くわ」
 瀬戸山、響子の手を握りしめる。
 瀬戸山「どこまで行けるか分からんけど、前へ進んでみるか」

143 首都高速道路料金所
  
空は雲が低くたれ込めて、寒い。
  地方からの自動車道路との連絡料金所。路側帯に一台の白い国産車。
  中には田口が双眼鏡で車をチェックしている。
  時間は、午後六時。都内へ入る車が増え出す。
  と、猛然とダッシュするRV車を発見。
  追跡する田口。
  その後を追う覆面パトカー。

144 覆面パトカー・車内
 
刑事A「前のRVを追っているみたいだ。RVは盗難手配車じゃないか?」
 刑事B「本部、応答願います……」

145 一般道
  
田口、尾行車に気づき、脇道に逃げる。
  後を追う覆面パトカー、サイレンを鳴らす。
  一方通行を逆走して逃げる田口。

146 一般道
  
ガソリンが尽き、ついにRV車を捨てて歩く三人。

147 荒川土手・夜中
  
歩き疲れた三人。
  雪が降り出す。
 美樹「舞坊さあ、悪いんだけどたどり着けそうもないよ。ここでも良いでしょ」
  舞夢首を振る。
 舞夢「絶対にダメ。ボクはあきらめない」

148 公団団地
  
紅白歌合戦を見ている道代と妙子。
  呼び出しベルが鳴る。
 道代「誰だろうね。お年始にはまだ早いしね」
  ドアを開けると、三人が立っている。

149 同・居間
  
舞夢達の話を聞き終わって、
 道代「そう、今からでも行きなさい。私が話をつけるから。あそこの磯貝さんとこ、
   社長のとこの不法係留のモーターボートもってたわね。
   飲み代のツケのカタに借りよう。電話をしてと……」
 声「ちょっと待った」
  いつの間にか田口が部屋に入っている。
 道代「何よ、あんた土足で入ってきて」
 田口「早く出るんだ、すぐに警察が来るぞ」
  外に出ていく一同。

150 荒川土手
  
どんどん雪が強く降る。
  モーターボートのエンジンがかからない。
  そこに、サイレンの音が遠くから聞こえる、
  遠方を見やると、一台の車のヘッドライトが見える。
  舞夢、泣きそうな顔をして野呂を手伝う。
 美樹「来たわ。早く」
  みんなでもやい綱をはずす。
  そこに、瀬戸山と響子が手をつないで土手を降りて来る。
  田口は、刑事の方へ行く。
  瀬戸山達とすれ違いざまに
 田口「瀬戸山よ、近頃のガキは大したもんだぜ」
 瀬戸山「当たり前だ。俺のところのガキだ」
  田口は刑事達を押し止めようとする。
 田口「どうも旦那方。大晦日寒い中ご苦労さんです……」

151 同・土手
  
瀬戸山と響子が走る。
  二人舞夢のところにたどり着く
  響子、舞夢を抱きしめる。
  舞夢は、一瞬動揺するが、響子を振りほどいて走り出す。
  泣きながら堤防を走る舞夢。
  追う瀬戸山。
  堤防の向こうに消える舞夢。
 瀬戸山「舞夢!」
  川に飛び込む瀬戸山。
  しかし、舞夢の姿はない。舞夢は堤防の影でうずくまって泣いているだけだった。
  しばらくして、浮かび上がる瀬戸山
 瀬戸山「助けてくれ、俺は泳げないんだ」
  一旦、川に背を向けるが、意を決して川に飛び込む舞夢。

 
 じりじりとボートのもやいがほどける。
  美樹がそれを発見して
 美樹「ボートが流されちゃう」
  素早く響子がロープを掴むが逆にそのままボート内に落ちてしまう。
  静かにボートが流され始める。

152 川の中
  
溺れる瀬戸山を助け、響子の手を掴む舞夢。
  そしてボートまで泳ぎ着く。

153 河原
  
その様子を見ていた全員から歓声が起こり抱き合って喜ぶ。
  土手の向こうから刑事が田口とやってくる。
  ボートはじきに見えなくなる
 美樹「行っちゃったね」
 野呂「よよよ、良かったのかなあ」
 妙子「だから子供はバカな大人のせいで苦労するのよ」
 刑事A「誘拐犯人はどこだ」
 田口「何を行ってるんですか、人数は多いけど、血はつながってないけど、私らは家族です。
   これは家族の問題です。
   自分たちで何とか解決できますよ。他の人は黙っていて下さい」
  全員で、沖を見つめる。
 刑事A「変なこと言うな、お前たち」

154 沖合
  
海へと運ばれるモーターボート。
  いつの間にか雪は止んでいる。
  途方に暮れた表情の親子三人。
  夢の島を通り越すと、
  水平線の向こうから今年最初の太陽が昇る。
  静寂。
  一枚の止まった絵のような東京の夜明け

●一月一日 元旦

155 エンドタイトル
  
キャスト・スタッフロールが流れる。

(了)

角田 作