ノンフィクション2003


ドラッグは世界をいかに変えたか―依存性物質の社会史
デイヴィッド・T・コートライト:春秋社:2500円


ドラッグというものを広く読みとると、アルコール、コーヒー、タバコ、茶、コーラ、チョコレートも含まれる。これらのものはなぜか西洋に受け入れられたものだけが世界に広まっていくという歴史を辿っていた。その依存性の強さと流通の不可解さを社会学の方面から読んでいくものだが平易な内容として書かれているので、読み飽きることはないです。
そもそも少数民族の秘薬として使われていた依存性物質が、西洋人に発見され栽培され(ただ大半が土地をダメにするほどチカラの強い植物)、はじめは非合法に広まり次は合法になって代わりに税を課されるようになり、そして大企業が乗り出し、人口に膾炙するために甘味を加えられたり、広告で格好良さをあおられて、人々をさらなる依存性の高い物質へのと導く(強い別のドラッグへの抵抗を無くし手を出しやすくする)。
依存性の物質は、社会的に学習しなければ摂取しないものだと言う。麻薬同様アルコールやタバコにしても好奇心がないとやらないし、習慣性を持つこともない。その伝だと、朝の出勤前にコーヒーを飲んだり、紅茶に砂糖を入れて飲みやすくするのも、健康やリラックス云々というが、単なる依存のバリエーションに過ぎない。
この例に習うと、いずれプロザックやいわゆる合成麻薬も、依存性物質として認知されていくに違いない。逆にタバコの次にアンチドラッグの標的になるのはなんだということにもなる。
そして、いまのグローバリズム経済体制のなかでは、新しくファースト・フードという高脂肪食品への依存があるだろう、作者は「近代資本主義の奇妙でいやらしい特質は、ある種の商品やサービスで私たちの感覚を欺き、次には損傷に対処するために別のものを売って、そもそも問題を起こした原因をさらに消費させる能力にある」と看破し、さらに他の文献からの引用で、「ダイエットこそ高度に完成した消費形態なのだ」と述べる。あのMc社とMS社が思い浮かぶ。両者は依存資本主義においては同一なのね。
今どきなキーワードの「癒し」は、実は依存症に置き換えると、また別の様相が見えてきて興味深いです。


エンパイア ミッチェル・バーセル:文藝春秋:3000円

バブルの時代、アメリカのシンボルが次々と売り出された。そのときエンパイアステートビルの所有権という不思議なものも売り出された。これは、テナントの賃借権とは別のもので、手元にはカネは入らず、ただ「このビルを持っているんだぜ」という一種の見栄なもの、ゴルフ会員権のようなものといえばわかるでしょうか、そういう商品なのだ。
さてそれを手に入れたのは誰か。横井英樹だった。それも異端の金持ちはこっそりと買ったために、バブル崩壊後その権利の売買を巡って実子庶子を含む一族の骨肉の争い、ドナルド・トランプをはじめとするニューヨークの不動産王たちとの争いが始まる。多大な犠牲とカネと時間を費やしたこの闘いの終わりは虚しいものだったことだけは書いておきます。
これはノンフィクションであり、半端なフィクションよりはるかにオモシロイ。途方もないエゴの固まりの人間の剥き出しの争いは壮絶です。すべての登場人物に距離を置いて取材して、日本についても経済社会情報についても的確だ。それにしてもすべての騒動の種であり、彼のカネの出所はあのホテル・ニュージャパンの土地というのはなんとも象徴的ではないか。そして融資元は潰れた千代田生命。911のあとふたたびニューヨーク一高いビルとなったエンパイアステートビル。驚くことにテナントのほとんどは小さな会社事務所の集合する雑居ビルだということ。結局変わらなかったのはそれだけだという皮肉な事実。


グリーン・ファーザー 杉山満丸:ひくまの出版:1500円

副題、インドの砂漠を緑にかえた日本人・杉山龍丸の軌跡。
杉山龍丸とは小説家、夢野久作の息子です。戦前の右翼玄洋社の頭山満の片腕の杉山茂丸は、息子の久作に福岡郊外に四万坪の土地を買わせ杉山農園を拓いた。これは欧州の植民地から独立したあとのアジア各国の人たちに農業技術を学んでもらおうと意図した遠大な計画のひとつだった。久作の多くの作品もそこで書かれた。
その後一族は没落していくのだけども、戦後インド政府から招かれ龍丸は砂漠の地に作物を育て飢餓を無くすために、ユーカリの木を植えに行く。その課程を龍丸の息子が辿るというものです。大河ドラマのように壮大で感動的な話。中学生にも読めるようにふりがなもあります。
夢野久作大好き人間としてはぜひ一度福岡は訪れたいところですね。ちなみに杉山農園は龍丸の活動資金のためにほぼ全部売り払われてしまった。


マフィアと官僚 犯罪大国ロシアの実像 スティーブン・ハンデンマン:白水社:2718円

ロシアン・マフィアは突然ソビエト崩壊後に現れたのではない。もともと共産主義の時代にもヤクザのような集団はいた。地元の顔役という古風な倫理観に基づく存在だ。
しかしソビエトが消え去り混沌とした時代が訪れると、事態は一変する。そこで台頭してきたのは、もともと権益を持っていた共産党官僚たちだった。彼らは自分たちの受け持っていた人民の資産を自分の名義に書き換えたり、あるいは売却したりして、富を蓄えていく。極端な言い方をすると、警察官が泥棒になったようなものだ。または倉庫の管理人が倉庫の品物を自分のモノとして売り払う、このようなことが平気で行われた。いわば官僚マフィアの誕生だ。
一時期のロシアがマフィア経済によって支配されていた(いる?)のはこのような背景があったからだ。それまで国家運営の中心にいた官僚たちが一夜にして、ギャングになったということだ。
持てる者たちは、暴力を借りて、その富を守り増やす。弱肉強食の時代。一部の高級官僚は持てるだけ資産を隠して新しい時代に備えた。腐敗を一掃すると息巻いたエリツィンも結局は、彼らのなかに取り込まれてしまった。


素顔のスペシャルフォース (上下) トム・クランシー:東洋書林:各1900円

実は戦争好きで、すぐに勝負がつかないと気が済まない単細胞の体育会系だったジョン・F・ケネディにより、どんな汚い手を使ってでもすぐに勝つために設立された米陸軍特殊部隊グリーンベレー。似ているけどデルタ・フォースは対テロ特殊部隊。
 クランシーの太鼓持ち的取材は読み物としても結構おもしろい。陸海空毎にバラバラに作られていた特殊部隊を統合し、実戦配備したのがボスニアの頃からで、ソマリア、アフガンを通じてそれなりの働きをしたが、その能力を政治家が過大評価したために無茶苦茶な侵攻のペースの地上戦になったのが今回のイラクだろう。
 部隊の歴史・編成やいくつもの州に跨って行われる大規模演習の様子を読むと、自衛隊とスケールが違うなあと感じる。グリーンベレーは攻撃するだけじゃなくて、友好国の軍隊を訓練することも大きな役割だ。ベトナムなら山岳民族、中南米やアラブアフリカの対ゲリラ部隊を訓練しても、それがムジャヒディンなどにテクニックが伝わるのは必然でまったくのマッチポンプなことだけどね。まあここには書かれてないが、その辺りと麻薬ルートの関係もオモシロイのだけどもね。それは別の話題。
 クリントン政権のときに特殊部隊出身としては、はじめての統合参謀本部議長になったシェルトン将軍の言葉が興味深い。彼自身が実戦参加したベトナム戦争での教訓として、

 1.すべての戦争にはそれぞれ固有の軍事的、文化的、地理的、政治的、経済的なコンテクストがある。
 2.大規模な外交政策を実施する場合にはコストを慎重に見積もって徹底的に議論しなければならない。政治目標を達成するために軍事力の投入が有効であるかどうか話し合わなければならない。また軍事力を用いる前にどこで軍事活動を終りにするのかを決めておく必要がある。
 3.軍事力の投入は大統領の持つ外交手段のうちのひとつに過ぎない。「軍隊は強力なハンマーである。しかし、直面する問題のすべてが釘であるとは限らない」
 4.軍隊を投入する場合は圧倒的な力を発揮しなければならない。敵に避難場所や最終手段、軍事力の及ばない勢力基盤を与えてはならない。
 これを読む限り対イラク戦争ではこの教訓はひとつも生きてないような気がする。政治家と軍人がぶつかったハナシなどを聞くと非常に頷ける。


ワスプ(WASP) アメリカン・エリートはどうつくられるか 中公新書:越智 道雄:760

ご存知のようにアメリカの権力の中枢部を牛耳る、白人、アングロサクソン、プロテスタントの略称のワ スプ。著者は現代における彼らの動きを大恐慌時代から紐解く。その時代に行われたのは、ウォール 街からワシントンへの人材の移動だった。ルーズベルトを大統領にしてニューデール政策により経済を立て直すシナリオが成功したためにワスプの政治での発言力が増すことになった。それにより共和党よりも保守的だった民主党がリベラルな政党へと位置付けが変わったのもこの頃からだったそう だ。
ワスプは金持ちで豪奢なの印象があるが、実は質実剛健で常に社会の規範たれという意識がありそ のプレッシャーは子供へ直接伝えられる。ブッシュ父が子供の頃、野球でホームランを打ったとママに報 告したところ、ママは「それでチームはどうだったの?」と聞いたというように、自分を前面に主張するよりもチームの良 き模範たれという教育がすり込まれている。その一方で人生が保証されているワスプの子孫たちは、だらだらと生きる 伝統の無い貴族めいた存在でもある。ヨーロッパコンプレックスもここらに起因する。有り余った時間と社会規範のため に彼らはボランティアにも貢献する。公民権運動も権力層ワスプの子供たちが加わったために、アメリカ社会を揺るが したことも事実として指摘できるそうだ。
とここまで読むと、私たちがイメージするアメリカ社会はワスプのそれであり、実は非ワスプのアメリカ人も憧れるアメリ カ人の姿というのも同じことに気付く。例えば「華麗なるギャツビー」も成り上がり者がワスプ社会に入り込もうという話だ し、ユダヤ人が中心のハリウッドが作り出した、アメリカン・モラルもワスプのものだろう。スポーツ選手がすぐにチーム のために戦うとインタビューに答えるのも、自己中心のアメリカ社会とどう整合性があるのか気になっていたが、これを 読んでワスプが良い行いの基準になっていることが理解できた。それについて著者はもっと直裁に、 非ワスプ層の (金銭的=成り上がり)成功者が一番簡単に模倣しやすい外見上の行為はワスプのものだと言う。成り上がり者 が子供を一流の学校に送り込むのと同じ感覚だ。この本を読むとアメリカ社会のモラルの二重基準が見えてくる。


近代の奈落 宮崎学:解放出版:2000

日本が抱える昏い部分である被差別部落。アンタッチャブルであったが故にいつのまにか実像が見え なくなり神話化された松本治一郎や水平社などの事象。いまの社会とのギャップ、その 神話に耐えら れなくなった組織や運動に揺さぶりを掛けるべく、もう一度、彼らの生きた土地を歩き彼らについてい まの視線から光を与えなおそうとした試みが本書だ。私自身勉強不足でわからないことが多いのだが、 きちんと素地をつくってから読み直したり土地を歩いたりしたい本です。
ただ解放運動のさまざまな事柄が硬直化したのを、作者は経済的な権利を獲得して行くとともに、外部 からの管理の圧力に反発した時代から、自然と自ら自主的に管理されたがる時代に変わってきたこと を、オーウェルの「人間牧場」から指摘するところは鋭くうなってしまう。




私は「うつ依存症」の女 エリザベス・ワーツェル:講談社:1800

若者の自伝、英語だとmemoieでautobiographyじゃない。アメリカではこの種の本がブームとなり売れたらしい。ニューヨークに住む、子供の頃両親が離婚して母親に育てられプレッシャーを受けた生真面 目でちょっと変わったユダヤ人の女の子が鬱病に罹り、ハーバード大に入学してからも余計ひどくなり、麻薬堕胎と荒れるがプロザックの服用によって救われいまは音楽関係のジャーナリストをしているという 内容。日本でも飯島愛に書かせたりして、一時どっと出た「つらい体験をした感動の若い女性の手記」を売り出したのもこの手法ということだ。クリスティーナ・リッチ主演で『Prozac Nation』の原題で映画 化(2003年公開)。元気があるときに読むのは他人の話として読むのは良いが、落ち込んだ時に読んで も力が湧く種類の本じゃないことは確か。オモシロイけどね。本人はいまリタリン中毒らしいが…嗚呼。



デルタ・フォース極秘任務 創設メンバーが語る非公式部隊の全貌 エリック・L・ヘイニ:早川書房:2300

アメリカ陸軍特殊部隊、デルタ・フォースは公式には存在していないことになっている。ベトナム戦争末 期に設立された部隊の選抜試験はイギリス陸軍特殊部隊SASの試験と酷似している。その過酷さは半 端でなく度肝を抜かれる。エピソードとして、イラン人質解放作戦失敗の真実、レバノンでの秘密暗殺指 令、グレナダでの作戦、また政治的に握りつぶされたカンボジアに囚われていたベトナム戦争捕虜救出 作戦など、知られざる部隊の裏側が読み取れる。






FBIはなぜテロリストに敗北したのか 青木 富貴子:新潮社: 1400

911について、英語の資料を使って簡便にテロに至るまでの道筋を追っている。まあよくまとまっている が今更ながらの新しいネタは一つもない。この事件は新聞、雑誌しかもアメリカのものだけではなにもわ からないだろう。世界史の視野が含まれなければ何も見えてこないと思うのは私だけだろうか。







世界を不幸にしたグローバリズムの正体 ジョセフ・E.スティグリッツ:徳間書店:1800

ようやっと、IMF、世界銀行の功罪に世界からの反論が届くようになってきた。作者は世界銀行のスタッ フとして、アジア金融危機(タイと韓国)をみてその滅茶苦茶さにこれを発表しなくてはと公に発言するよ うになったようだ。

詳しくは ここ を参照にしてもらいたいが、専門家と呼ばれる人がいかにいい加減か、またアメリカの威 光を使っているかが明かされる。いわばその国のことを知らないのに 金を貸すから俺のいうことを聞 けというやり方が通用していたのだ。しかもその処方箋は地域性を考慮せずにどの国でも同じ。支出を 切り詰めて、財政健全化をして自由化を促進して海外からの投資を待つ。おかげで余計その国をダメに していくことが次々と起こった。タイはその通りにやって経済は沈滞した。韓国は言う事を聞かずに独自の政策を取りIM Fの借金を返すことができた。ようやく最近は外からの批判が届いたらしく、少しはやり方を変えているらしい。でないと 日本もやられているところだ(まだ虎視眈々と狙っているようだが)。

ただし作者はいわゆるグローバリゼーションを否定しているわけではない。瞬時にカネが動くことでその国の経済 を破壊することができる、いまのグローバリゼーションといわれるシステムを否定しているのだ。教育文化経済のインフ ラとしてのグローバリゼーションの役割を認めている。 ここに書かれていることが終わった歴史の評論となるか、これからも起こる愚行を説明するテキストになるのかはま だわからない。


それがぼくには楽しかったから 全世界を 巻き込んだリ ナックス革命の真実 リーナス・トーバルズ、デイビッド・ダイヤモンド:小学館プロダクション: 1800

Linuxを作り出したフィンランドのヲタク青年が自分のことについて書いた本。誰とも遊ばずに、自宅でこつこつとプログラムしている様子は予想通りともいえる。ただ彼が普通のヲタクと違うのは、 親が共 産主義者のジャーナリストだったこと。良い悪いにかかわらず、社会を見る目が育てられていたので 単純にネットに閉じこもることはなかった。また大学に25才くらいまでいられて、電話が定額料金という社 会だからこそできたのだろうな。所有に対するフリーという概念がここまで徹底することができるというの も痛快な話だね。

注釈として加えておくと、Linuxの場合のフリーと言うのは、無料というのではなく、使用、頒布、譲渡を自 由にできるというフリーであって、それを改良して、有料の販売をすることを全く否定していない。だから たくさんのバージョンがあると共に有料と無料のバージョンがある。



タリバン拘束日記 アフガン潜入から拘束、解放までの 26日間 柳田大元:青峰社:1400

すっかりあの時はニュースネタとして有名になってしまったが、その実態は記者会見でも口を噤んだまま でわからなかった。本人が克明に日記と言う形にしてここに残した記録には、国境を越えてすぐに捕らえ られてそのままタリバンが崩壊するまで監禁されていた模様が描かれている。そこにはただ単調な収容 生活があり、同房のパキスタンやフランスの記者や地元の泥棒や政治犯が雑魚寝をしている。自分が 現地を歩き回ったわけでもなく、ここからあの戦争やタリバンについて何かを見出すのは難しい。それは 著者も充分にわかっているようだ。どうしてもアタマに残るのは、寒い早朝から一杯の紅茶をに飲むの に何時間もかけて湯を沸かし1日を始める、それだけのことが殊の外、新鮮に神聖にみえるところだ。 あの戦争について一般性はないが、読書リストには付け加えたい一冊。



レッド・マフィア ロバート・I・フリーマン:毎日新聞社:2200

北海道のテレビ局のドキュメンタリーで、ロシアン・マフィアが大量に日本に向けてカニを乱獲していて 資源が底を尽きそうだという、すごい実態がレポートされていた。そのカニはたぶん「激安グルメバスツ アー、カニ食べ放題」に流れるんだろうなあ。それでマフィアが潤うという仕組みのようだ。

本書は、ロシアン。マフィアに暗殺の懸賞金をかけられているアメリカのジャーナリストが、多方面から 彼らの活動に迫ったものだ。ソビエト崩壊前に、ロシアに住むユダヤ人犯罪者をアメリカに追放(亡命) するという秘密裡の工作により、 ニューヨークのブライトン・ビーチはロシアン・マフィアの拠点とな る。イタリア・マフィアも一目置くという残忍さ。「彼らは標的だけではなく、その家族だろうと無差別に殺し まくる」。ロシアの財産の横取りや不正な財産づくりをアメリカでマネーロンダリングして帝国を広げていく。ロシアの銀行 の多くは彼らのものだし、東欧までも牛耳り、コロンビアマフィアとも手を握り、密輸用にソビエト海軍の潜水艦を館長、 乗員ごと売却しようとする。ハンガリーでは合法的に兵器製造会社を手に入れる。また NHL(ホッケー・リーグ)のロシア 出身選手に食いこむ。

多くがユダヤ人である彼らはまたイスラエルにも拠点を持つ。第二の祖国でもある。たぶん世界一巨大な闇の世界を 牛耳るロシアン・マフィアが、表舞台に出てくるのも遠くはないと著者は警告している。



タリバン イスラム原理主義の戦士たち アハメド・ラシッド:講談社:2800

副題のIslam,Oiland New Great Game in Central Asiaが示すように9.11以降曖昧にされ続けている大 国の欺瞞。それを既にきちんとした視点から解読している。
“本質的に聖戦はより良き人間になり、自らを改善し、コミュニティを助けるためのもの、ムスリムの内部 闘争なのである。聖戦はまた、神への服従と地上に対する神の命令の実践を試す場なのである”
これがいわゆるジハードの定義である。あらゆる宗教の最終到達点である自分自身との闘いのこと なのだ。聖典の解釈によっていろんなことが起きるのもどの宗教も同じ。イスラムを特別と考えるのはお かしい。
タリバンという組織がどのように生まれ、何をしてきたのか。北部同盟との戦い。国際社会参加を目論 んだ事。隣国との関係などが事細かに書かれている。
なかでも、タリバンを認知して、トルメニスタンからパキスタンへパイプラインを引こうと議会に圧力をかけたアメリカの メジャー石油会社ユノカル の動きは怪しい。その怪しさはいまも続いているようだ。



タリバン 田中宇:光文社新書:680

タリバンにつ いて、著者が2000年にアフガニスタンを訪れた記録を間に挟みながらタリバンの成立を簡 潔にまとめている。地に足のついたレポートで、アフガニスタン人のモノの考え方、その誇り高さ、難民 キャンプの様子、カブールという都会と田舎の意識の違い、密輸経済、など日本人の目線ならではの記 述も多い。








東京アウトサイダーズ ロイ・ホワイティング:角川書店:1800

著者の手にかかると戦後のトーキョーは暴力が支配するギャングシティということになる。まあ外国人 の視点に立ってみるとそうなるのだろうが。
前作の「東京アンダーワールド」で入りきれなかったガイジンたちの姿を描いているが、ネタが小ネタな のでピンとこない。オムニバス形式で何人かを紹介しているのだけど、人物が活き活きしていないのは 戦後の物語に多くが当てはまりすぎていて、ノスタルジーの対象にしかなっていないからなのだろう。そ の意味での意外性はない。たぶんにこれはある戦後史のカタチとして日本人が書いてもいい本なのだろ う。




カリフォルニア・オデッセイ 6 ハイウェイの誘惑 ロードサイド・アメリカ 海野弘:グリーンアロー出版社:2381

このシリーズも最終章を迎える。ここではアメリカの神話としてのハイウェイが出てくる。アメリカの文化 として独特な役割を果たすハイウェイをロードサイドに欠かせない次の三点から考察する。 「ガソリンス タンド」、「ドライブイン」、「モーテル」、「アトラクション」。
これらがいかに独特だったものかをまずヨーロッパ人の目から見て行く。ナボコフの「ロリータ」がそう だという。二人が移動に使うのがクルマであり、アメリカ人の生活とロードサイドの風景を異邦人の視線 で描いているという。
時代とともに変わる風俗とビジネスをアメリカの地の力とみるか、画一化とみるかは結論はでない。丹 念に記録された写真に映るマクドナルドデニーズハワードジョーンズホリデーインモービルエッソシェルな どのチェーン・フランチャイズ店はいまもある種の繁栄のイコンであることは確かだ。
そして終章でふたたびケルレアックのカリフォルニア行が登場し、このオデッセイは終わりを告げる。なんでこんなおも しろい本が話題にならないのかが不思議だ。


物語の作り方 ガルシア=マルケスのシナリオ教室 G.ガルシア=マルケス:岩波書店:2700

キューバの映画テレビ学校で、ガルシア・マルケス(コロンビア)を中心に、プロ、アマのラテンアメリカ 各国の映画テレビ関係者が 30分のテレビドラマのプロットを考えるワーク・ショップの試みの記録で ある。
30分と言うのはみんなで叩いてカタチにするにはちょうどいい長さということで、、一人一人が持ち出す アイディアを脹らまし整理していく。
「週末の泥棒」。泥棒が盗みに入った女主人と、いつの間にか信頼し合い打ち解けてしまい、一緒に週 末を過ごすことになる話。
「第1バイオリンはいつも遅刻する」。オーケストラの奏者である夫が殺し屋だということに気づく妻のサ スペンス。
「シダリアとベリンダ」。歳の離れた抑圧された姉妹が、田舎の旧家の中でおかしくなっていく愛憎劇。
他にも、アルゼンチン人がカリブ海で休暇を過ごそうとするとホテル中がアルゼンチン人で溢れる話。刑務所から出て きて復讐を誓う老人に悪魔が近づき、若さを取り戻させる話。余命が少ない男が死神を取引をする話。などがポンポン と飛び出す。
もはや日本では通用しないような話がまだラテンアメリカでは通用するんだなあと感じた。上記の話なんか、星新一の ショート・ショートだよね。昭和30年代ということ。そこらが常識なんだろうね。ラテンアメリカ人が信じられる話は日本人と また違うことがわかりおもしろい。だからどうしても映 画はドメスティックな部分と切り離せないのだろう。
ガルシア・マルケス自身、イタリアに映画の勉強に行っていたくらいで造詣が深い。本書のなかでは、クロサワの『生き る』、『七人の侍』が言及されていて、その物語の力強さは、好むと好まざると世界中に日本映画としてでなく、映画自体 が強い印象を与えるのだなと思う。贔屓目じゃないのは、作者の日本に対する知識はいい加減でまだ汲み取り便所だ と思っていたりしているのに、それを差し引いてもクロサワがおもしろいと言っているところだ。
このワーク・ショップの進め方も創作教室として勉強になる。どのようにしてアイディアを話し合って形にするかはスリリ ングでもある。どうしてもアイディアが出なくなって休憩に入るとき、窓を開けて換気をしようとした生徒に、「開けては駄 目だ。神聖な空気までも出て行ってしまうんだ」というのはわかってらっしゃると思った。


パブロを殺せ マーク・ボウデン:早川書房:2500

コロンビアのメジシン・カルテルのトップ、パブロ・エスコバルがいかに権力を拡大し、やがてアメリカに 追われ、殺されるかまでを追った本書は、徹底して捕物帖として描かれている。特にコロンビア政府の 影にいるアメリカの存在を余すことなく暴き出しているが故に貴重なレポートと言えるだろう。
アメリカで裁かれ刑務所に入れられることを恐れる彼は、コロンビア政府を取引をして自首する。収監 された刑務所は、彼自身のカネで作られた豪邸であり、麻薬取引のビジネスも続けていた。コロンビア 政府は、居場所がわからないよりはマシという判断だった。
直接介入できないアメリカ政府は、CIAをはじめとするあらゆる特殊部隊を送り込む。しかしそれはワ シントンの権力・予算争いの延長にしか過ぎない。
もっとも恐ろしい事実は、再度逃亡生活に入ったパブロをいぶし出すために、アメリカの刑務所に入っているかつて のライバルのギャングをコロンビアに密入国させて、巨大な民兵集団ロス・ペペスを作り上げて、パブロの財産 や家族を標的としたテロを行う作戦を行わせた ことだ。これはヴェトナム、アフガニスタンで起きたことと同じパター ンだ。結果として、パブロは殺されたが、別の組織が政府に入り込むということに過ぎなかった。アメリカの言う「麻薬と の戦い」、「テロとの戦い」の空しさを考えさせられる。
2002年現在、ブッシュはコカインと誘拐を財源とするコロンビア左翼ゲリラをテロ集団と認定し、軍事行動を視野にい れている。皮肉なことには、ここに書かれているように本気になればコカインの精製の薬などはアメリカからの輸入であ り、最大の消費国がアメリカな訳でその二重基準は止みそうもない。


山口組若頭殺人事件 木村勝美:イースト・プレス:1,700

神戸オリエントホテルで白昼起きたあの事件。その真相を探ろうとすればするほど、深い闇が広が る。政治・経済の表舞台が係わってくるからだ。小沢一郎の政治資金の流れ、証券バブルのマネーロン ダリング、その舞台としての芸能界や金融界。そして引き金を引く暴力装置。
これらの流れについて筆者は押さえたトーンで書き連ねる。一読して信じられない内容。どこまでが推 測なのか。この流れを読む限り、許永中や自民党竹下派分裂などが繋がってくる図式 に唖然とす る。





兵器マフィア 武器秘密取引の内幕 江畑謙介:光文社:1359

フレドリック・フォーサイスの『神の拳』のモデルとなった、スーパー・ガンのイラクへの輸出事件の真相が書かれている。湾岸戦争、イラン・イラク戦争前後の武器を巡る各国の暗躍の様子や輸出国としての中国の様子。 NYテロ事件の 予告編としてアフガニスタンへの武器の流入についてすでに描かれている。
ただソビエト崩壊以前のものなので資料が古い。日本の武器輸出入について、東芝ココム違反事件の意味、対潜哨 戒機導入の裏側についても書かれている。


天下無双の建築学入門 藤森照信:ちくま新書:720

建築をいろんな文脈から切り離してすぐ作品として見るから、コンクリート打ちっ放しを美しいと言った り、へんてこな家を褒めたりするわけで、この本を読むと筆者の妄想を含めて建築の面白さに目覚めるこ とは間違いない。
建て売り一戸建てに必ずあるベランダ。あれは欧州にはないもので、いわゆる植民地スタイルである として明治の建築家は外人建築家が作ろうとした建物にクレームをつけた。そういえば明治村の建築物 は西洋建築をいわれながらも、アジアの植民地の建物スタイルだよなあ。
ドアが外開きするのも日本独自だと指摘する。映画で見ると確かにそうだ。相手を確認するのには内 開きじゃないとダメだ。防犯で考えたら蝶番が外にあるし、外に開けられたら相手の侵入は防げないわ な。内開きはホテルくらいだよね。
神社の形式も元々は森のなかの一本の木が神が宿る依代としてあっただけだったのに、をそれを守るために屋根が 作られ神社になったのではないかという推測。
通説としてのエンタシスや正倉院。エンタシスが法隆寺に影響したというのは証明されていないし、正倉院は湿気が少 ないというのもウソ。実際は湿度の変化が緩やかだったので長持ちが出来たというのが真相らしい。
想像が飛躍しすぎるところもあるけれど、読み物としては充分におもしろすぎる一冊です。


封印されていた文書(ドシエ) 昭和・平成裏面史の光芒Part1 麻生幾:新潮社:667

梅川事件、浅間山荘、下山事件、ホテル・ニュージャパンなどなどの事件をも一度掘り起こそうという わけで、当事者(大体が警察組織など)の視点から描いたプロジェクト Xのようなもの。読み物としては おもしろいが一面表層的なので、他の目線からの本と併読することをお薦めします。







ドナービジネス 一橋文哉:新潮社:1400

相変わらず飛ばし過ぎの一橋だが(まあ著者は数人の合作という話もある)、読み物としておもしろい ことは確かだ。事実と創作がどこまでかは眉唾ものだけどね。あまりに秘密の話なのでだれもウラが取 れないところがなんともはやだ。
いわゆる新聞の三面記事描写(「深夜バンバンという音が聞こえ何々さんが外に出てみるとあたり一 面血の海だった……」)の通俗性と、ニュージャーナリズムの記者が全面に出て体験したことを事細かに 書くという手法をごっちゃにして、いかにも週刊誌ネタで読者を煽る体裁となっている。
いままでどこかで聞いたことはある、海外での臓器移植や死刑囚の臓器を抜くようなの話ではあるが、 実際の数字や地名が出てきて飽きないように書かれている。



荷風と東京 『断腸亭日乗』私註 川本三郎:都市出版: 3200

分厚い本ながらも気軽に読めてしまうのは、当世の散歩者である著者が実際に荷風と同じ町を歩 き回ったからだろう。その皮膚感覚を通じて荷風の考え方を推理していく形になっている。
大久保の山手の屋敷から出た、金持ちの次男坊は築地に住み歌舞伎界にあこがれる。しかし長屋 の喧噪が嫌になり、麻布に移住する。そこは外国人が住むような屋敷が点在する場所だった。慶応大 学での職を持ち世間体を整えられて荷風は株の余録で優雅に暮らす。玉の井通いもこの頃だ。戦後 はすべてを失い市川で一人で晩年を過ごす。
衒学的な文章がひとつもないので、この時代この東京に生きたハイカラな文学者の姿が浮き彫りにさ れる。文学評論家前田愛氏が生きていれば的確な注釈が付いただろう。



イサムノグチ 運命の越境者 ドウス昌代:講談社 上下: 2000

評価が安定しない、日米のハーフであった現代彫刻家の伝記。作者は日米をまたぐ人物のルポルタ ージュには定評のあるドウス昌代。
ノグチは元々手先が器用だった。日本で少年期を過ごし、創作で身を立てようとニューヨークの芸術学 校へ入学しようとしたときに、講師がノグチに彫像の模写を命じた。即座に誰よりもうまく模写をしたノグ チを講師は、基本が出来ていないと認めなかった。
これは重要な挿話と思える。まず西洋芸術において、模倣は忌み嫌われるものであり、師匠の真似 (模倣)からはじまる東洋の考え方は理解不能なのであろう。 どんなに模倣をうまくできても認められ ないのである。シュールレアリズム以降のいまもこの考え方は支配的だ。ノグチが、無国籍なシュール レアリズムに近づいたのも頷ける。
だが結局のところアメリカでは日本的な、日本ではアメリカ的な芸術家としての道しか歩めなかったのには過度の手 先の器用さが災いした ようにも思える。職工としての優秀さは芸術家としての個性を生み出すまでには至らなかった のだ。
俗世ともうまくやれた彼の一番有名な作品は、紙と木でつくられた照明「あかり」だろう。芸術界ではインダストリアルデ ザインであって、芸術作品ではないというのが通説らしいが。非常にドラマティックな人生は読み物としても充分に楽しめ る。


キング・オブ・コカイン コロンビア・メデジン・カルテルの全貌 ガイ・リオッタ ジェフ・リーン:草思社 上下:1900

80年代にアメリカでコカインが蔓延したのは、通常の何倍の速度で心身が回転するバブル社会に最適なクスリだった ことが挙げられる。その爆発的な流行に、それまでのラヴ・アンド・ピースな大麻(マリファナ)で作り上げられた密輸ルー トが、コロンビア人とアメリカ人によって受け継がれ、徹底的に利用されたこととアメリカ政府がコカインに対してはあまり 注意をしていなかった結果といえる。
航空機を使うルートは洗練され、カリブ海の小島を買い取り滑走路を敷設することから始まり、ノリエガ将軍のパナマ 政府と取引をしたり、ニカラグアの革命政府を利用して、数トン単位で毎週運んだ。
コロンビアの小都市メデジン出身の麻薬王たち(メデジン・カルテルはひとつの犯罪組織ではなく、メデジン出身者たち がカルテルをつくりコカイン販売を行ったことを意味する)は政府に介入し、政治家になったり、言うことを聞かない最高 裁判所を襲撃したり、ありとあらゆる反対派を殺しまくる。
本書は、何人かの麻薬王が捕まる時点で終わっているが、需要と供給の関係がある以上アメリカの影から逃れられ ない中南米の歴史が見える。
あとこれは昔から言われていたことだけど、コカコーラの噂はホントのことのようだ。
「コカインは、毛細血管が集中する部位の近く手術するとき、局部麻酔に使用される。アメリカではニュージャージー州 メイウッドにあるステパン・ケミカル・カンパニーがコカの葉を輸入し、コカインに加工して製薬会社に供給している。ステ パン社から出る残留物----コカインの成分はゼロである----はジョージア州アトランタに運ばれ、コカコーラの味の秘 密であるフォーミューラ7Xの原料になる。」



誰がタリバンを育てたか マイケル・グリフィン:大月書店:2600

今や過去となってしまったタリバンだが、本書はソビエト撤退から部族紛争、タリバン誕生、テロ前夜ま で描かれていて、いまのアフガニスタンの政権に参加している連中が昔なにをしていたかがわかる。
またアフガニスタンの覇権争いが大パシュトゥーン主義というパシュトゥーン人のための国家建設が その根にあることがわかる。欧州列強によって、アフガンとパキスタンに分断された民族の統一が深い 部族対立の源になっている背景。
それらは20世紀初頭のイギリス対ロシアの「グレート・ゲーム」と称せられる、この地を巡る争いに はじまることを忘れてはならないだろう。
その意味では少しも古びていないし、歴史書としても十分の資料性を持ち合わした内容となっている。 硬い本だが奥行きがありながらもジャーナリスティックな部分も持ち合わせている。


山口組・血の4000日 洋泉社: 1300

いま住んでいるところは、そのギョーカイの方々が多いようで古本屋に本書や週刊実話などがあった りする。ギョーカイの動きは関係者としては気になるのだなあ。
田岡組長が死んで、いまも続く中野会との争いまでの模様を描いた内容はその意味では業界の必 読書とも思える。読んでいるとまさに仁義なき戦いのように、どちらに着くかで一夜にして勢力地図が塗 り替えってしまう数の論理は、一般社会とあまり変わらんような気がする。親分たちへの美辞麗句の脚 色や英雄譚が全くないために駆け引きのエグさが前面に出てくる。親分が頑張っても子分がボロボロと 切り崩されて寝返る様子などは、最後は義理人情じゃないんだねえということがよく分かる。



要塞都市L.A. マイク・デイヴィス:青土社: 3400

海野弘のカリフォルニア・オデッセーシリーズは、久しぶりに興奮する視点からロスの文化を斬った叙 事詩だと感じたけれど、やはり元ネタがあったのね。本書の序章に多くのヒントが隠されており、それを より芸能ジャーナリスティック、あるいは日本人に合うように作り上げたのが海野氏の着眼点だ。
しかしアカデミズムからドロップアウトした著者の視点は、さらにシニカルにロサンゼルスを解剖する。 社会学の方向から切り取っていく有り様は鋭いが、日本人には解釈しきれない部分がある。膨大な注釈 がないととても理解しきれない。
1920年代に出来た社会主義的コミューンが崩壊していく様子。市街地が要塞化して外に向かって は閉じられる安全な高級ショッピング・モール。その外側で繰り広げられるギャングの抗争(これは映画 『カラーズ』で描かれてる)。週末の家庭菜園で過ごすためにクルマで4時間かけて通勤する姿なぞ、開拓時代とどこが 違うんだという時代を超えた住民気質も窺える。
そしてロスという異常な都市空間の成り立ちは、結局のところLAタイムズの社主のチャンドラー家をはじめとする、 数人の金持ちがこの街に対してすべての決定権を握っていたことに起因する。彼らの意向で街が作られ警察や役所も 牛耳られたから、このような欲望が肯定される不思議な街に仕上がったといえよう。その卑しい街を歩くのが、フィリッ プ・マーローら、ハード・ボイルドの男たちだ。
ハリウッドなどの描写は少ないが、筆者はこの映画、レコードなど世界最大のソフト産業集積地をこう描写する。ディズ ニーランドは「イメージのエンジニアリングの結果」だと。


京の骨董は使うもんどすえ 小林明子:廣済堂出版:1600

「デパートで客用の白い規格品の西洋皿を買うのなら、同じ値段で骨董の江戸時代の和皿が買うこと が出来る」とこの本に登場する骨董屋の主のひとりが言う。 骨董は日常使われることでその良さが 引き立ってくるとも言う。京都にある、扱っているものが違う骨董屋数人が丁寧に著者の疑問に答えな がら骨董の良さについて語る。骨董についての注釈も易しく読みやすい。






SBS特殊部隊員 英海兵隊最強のコマンドー ダン・キャムセル:並木書房:1900

イギリス特殊部隊というとSASが出てくるが、海軍の特殊部隊SBSというのもあるんだというのが本書 である。ようするに、海から侵入するのがSBSということらしい。SASよりもエリートだぜという言い方がや たらでてくるが、それは元隊員の本ということで、それを差し引いてもおもしろい。テロリストが占拠する 北海の海底油田に近づくのに、 潜水艦に掴まって海中から部隊が乗り込み、30メートルの縄ばし ごをよじ登って潜入したり、ソビエトの軍艦の底部を計測するために、軍港の海底に忍び込むところな んてホントかいなと思うほどアクション映画のようだ。





ロシアン・マフィア 旧ソ連を乗っ取った略奪者たち 寺谷弘壬:文藝春秋:2200

こつこつと新聞などを読んで集められた資料に基づく、ロシアン・マフィアの姿がみられる。ロシアを経済的、暴力的、裏の政治的に牛耳る組織の成り立ち、組織の掟、現状が取りまとめられている。
これを読むと、ロシア革命前から、チェチェン、中央アジア、極東、バルト海と様々な民族がそれぞれに結束して独自 の組織を築き、その結果現れたのがマフィアだというのがわかる。その流れが分からないといまのロシア事情はわから ないのではないか。ウラから見たロシア像として貴重な報告だ。



トム・クランシーの戦闘航空団解剖 トム・クランシー:新潮社:781

あらゆるテクノロジーの最高峰がもっとも早く多く集まるのは軍隊であって、それが数年して民間に転 用されるのが歴史の必然だ。レーダー、ジェットエンジンにはじまり、 GPSやコンピュータ・テクノロジー、 またはMBAを取得したエリートどもが振りかざした統計理論は、もともとB29の生産過程の効率化を進 めるボーイング社のマニュアルからはじまったと聞く。もちろん映像技術もそうだ。ハリウッドが大規模な 撮影部隊を世界中動かせるのも軍隊のノウハウが動いているのだろう。
国家あるいは人が生き残るためにあらゆる手段を取るのが軍隊の使命なので、予算とか効率はとも かく言っていられない。第一次世界大戦以降、軍隊における考えはそうであった。しかし、物量ですべて を駆逐することを旨としていたアメリカ軍は、第二次大戦の総量より多くの爆弾を落としながらヴェトナム で敗退する。そして冷戦構造の崩壊。肥大官僚化した空軍はそのシステムの再構築を求められる。
それまで、戦闘機、爆撃機と種別ごとに分かれていた旅団を、戦闘機、爆撃機、燃料補給機を一パッケージにして世 界中どこでも派遣できるような形にすること。いわばそれまで 職能別のチームだったのを、高度な戦闘チームに変 換させたのだ。これは、陸上戦闘が、歩兵、砲兵などに分かれていたのを、特殊部隊のようにしてコンパクトに行動さ せるチームに変化させたことに相応するといえる。『ライト・スタッフ』、『トップ・ガン』に描かれた戦闘機乗り対爆撃機の 酒場での派手な喧嘩みたいな描き方は古くなったことがわかる。
このシステムが実際に運用されるかは、湾岸戦争まで待たなければならなかった。この戦略、戦術的な成功はヴェト ナム後遺症を本当の意味で払拭できたと米空軍は考えているようだ。従って勝利に対する誇りも大きい。
いまのアメリカの方針としては、海外の基地は閉鎖して国内防衛に重きを置くようにする。フィリピンのクラーク空軍基 地、ドイツにおける基地縮小の流れなどと一致する。もう一つの方針として、世界で同時に二つまでの紛争が起きたとき に対応できるシステムを保持する。911のテロ以降これらの体制がどう変わっていくのか。また航空自衛隊に何を求め てくるのか。そのヒントもここに書かれているのではないだろうか。
アメリカという国の歴史は暴力が作ってきたと言っても嘘ではないだろうが、アメリカの考え方が端的にわかる点で は恰好の本と言えよう。911からのアメリカの軍事的な動きの素早さに驚いている人もいるようだが、実際システムとは そういうものだと思う。
陸上作戦支援、クラスター爆弾や貫通爆弾についても解説してあるのでアフガニスタン空爆についても概説的にわか ります。



ザ・ボディガード リチャード・オコーナー:原書房:1600

ボディガードもピンキリいて、VIPの護衛からロシアン・マフィアの護衛までとある。冷戦の終結は、軍隊を辞めたボ ディ・ガードが増えるのとロシアンマフィアの護衛の仕事の増加を意味した。本書は彼らについてのインタビューを基に 1990年代のボディー・ガード事情を描いている。







ソビエトカメラ党宣言 中村陸雄:原書房:1600

「写るかどうかはわからない、それがソビエトカメラの魅力」と著者はうそぶく。それなら日本の使い捨 てカメラを使えばイイじゃないかというのは、 光学の持つ魔術に魅了されたことのない高度成長オ ヤジだ。
ロモという機種は日本で人気が出すぎて中古カメラの相場を変えてしまったという。まあ作者は撮れば 誰でも芸術的な写真が撮れてしまうロモはあまり好きじゃないらしい。ソビエトがアメリカに対抗していた 60年代のいかにも人民の汗の結晶である無骨なカメラを好んでいる。このカメラにアグファカラーのフィ ルムを入れれば、過日のソビエト連邦の風景が印画紙に発色し、衛星都市とか赤い星などの定型句が 甦る不思議な写真が出来上がる(昔の朝日社会年鑑に載っていたような赤茶けた写真だよ)。カラーの ページもあるのでご参考に。
ちなみに新宿カメラのサクラヤにもたくさん並んでいた。同時期の日本のカメラとそれほど値段も変わらない。ゆるい 遊びとしても良いかもしれない。
それでもソビエトカメラに躊躇する者に作者は激をとばす。「オートフォーカス、ズームなど使わずに男だったら50mmレ ンズで勝負してみろ。アンリ=カルティエ・ブレッソンだってそうだったんだから」。不遜である。
また本書は中古カメラに残って未現像のフィルムをめぐるいい話も読めます。3万円ほどでできる道楽はいかがです か。



都市の穴 木原浩勝 市ケ谷 ハジメ 岡島 正晃:双葉社:1200

「新耳袋」ほど不思議ではないけれど、信じられない都市伝説を集めたもの。口裂け女などはわかりや すい例であろう。知っているものも多いと思われる。いわゆる噂とその伝播のパターンをみている。
これを読むと本当だと信じていたことが実は都市伝説だったこともわかる。たとえば数年ごとに上京し てくる関西の当たり屋集団など、実際に車のナンバーがファックスで会社に流れてくることがいまもある らしい。でも最後に出てくる宇宙人と付き合っていた女性の話を読むとうーむと考えてしまう。一筋縄では いかない本だ。





非聖戦 CIAに育てられた反ソ連ゲリラはいかにしてアメリカに牙をむいたか ジョン・K.クーリー:筑摩書房:2400

あまりに明晰な分析に驚く。何の推論を用いずすべてをデータとともにあのテロ事件に至る道を解き 明かしている。
すべての始まりはソビエトの首脳部が誤った情報を基に密室でアフガニスタン侵攻を決めたこととそ れに乗じてアメリカのカーター政権が反ソビエト代理戦争を遂行したことにはじまる。実はアメリカに入 れ知恵したのがフランスの諜報機関の大物だったり、パキスタンのISSとアラブ諸国の存在がタリバン を作ったりとすべてがモザイク状に絡まっていく。アフガン侵攻のソ連軍もイスラム教徒からなっていて、 それが、チェチェン等の独立国家やロシアマフィアとなっていく過程など、政治的、軍事的、宗教的、民 族、金融、地下資源、麻薬等の裏ビジネス、とあらゆる方面から読み解く。
著者はアメリカのジャーナリストで中東を専門にしている。いままでメディアでは断片的にしか得られない情報や人 脈が統括して目の前に提出されるスリリングさはすごすぎる。 ここでみられるのが、ベトナム戦争以降アメリカが中 央アジアで何をしてきたかであり、少なくともこれを理解しようとしない限り、世界情勢は読めない。少なくとも 冷戦以後 の世界地図がどのようなものかを知るには恰好の本である。これを読むと日本人がいまも古い地図を使っている かがわかる。類書は多いけれど、これは必読と言いたいです。



文人悪食 嵐山 光三郎:新潮社:743

ひたすら編集者の目で見た文豪たちの裏話。 食いものという視点から人を斬れば、奇人変人のオ ン・パレード。夏目漱石はロンドン留学での習慣、3時のお茶を欠かさなかった。森鴎外は衛生学にこだ わって火の通らないものは食べないし、泉鏡花は細菌恐怖症で真夏でも燗酒しか呑まないし、永井荷 風の最期は美味くもない店屋物のカツ丼だったりと何人もの記録が掘り起こされておもしろい。こんな視 点から小説を読むとまた楽しい。出典も巻末にまとめられているので原著にあたるのも良いかも。





立花隆先生、かなりヘンですよ 「教養のない東大生」からの挑戦状 谷田 和一郎:洋泉社:1,500

20代の著者が訥々とまとめた知の巨人として知られる立花氏の発言に異を唱えている。と言っても決 して喧嘩腰ではない。筆者の専門である理系に限って問題を抽出しているので話も絞れている。
立花氏の興味を持つ分野、「インターネット」、「宇宙開発」、「臨死」、「脳」、「遺伝子組み替え」。これら の発言の裏に或傾向を認める。それは80年代に猛威を振るった “ニューエイジ科学”である。日本 じゃいまも信じている人が多いみたいだけど、代表的なのがガイア思想ってやつね。
立花氏の発言は、1)いま地球は危ない、2)だから○○を取り入れないといけない(○○にはインター ネット、宇宙開発などのキーワードが入る)、3)それによって人類は次の進化を遂げる。という過程を経 ている。ニューエイジ思想がオウムなどのオカルト思想と近いことは明らかだ。近年の発言ではそれが 顕著であり、筆者の他に何人もがアンチ立花氏を発言しているが、当人からの反論は今のところないようだ。



それでも人は楽天的な方がいい シェリー・E・テイラー:日本教文社:1524

著者は心理学者であり、この本に書かれてある画期的な考え方というのは、こころの健康な人は物 事を現実的に捉え行動するのではなく、現実に対してイリュージョン(楽観的な見通し)を持ってい て必ずしも現実的に考えている訳じゃないというところだ。 また反対にいままでこころの健康が優れ ずにうつ状態に陥る人は現実に対する考え方が間違っているのでそれを現実的に直すべきだと思われ ていたのを、彼らは現実を冷静に見つめすぎるので悲観的に陥るとして、より楽観的にものごとを考え ることを薦めている。
普通に生活をしている人たちが現実をそのまま考えているのではなくちょっと楽観的に見ているという のは発想の逆転としておもしろい。自身の未来について普通は悲観的な見方はしないわな。悪く考えれ ばいくらでも出来るし。
しかし人は悪い方へと考えないようにできている。悲惨な事故などに遭遇しても人間が回復をして、さらに以前より強く なるというのはこのメカニズムが作用しているらしい。物事には限度があり、様々な部分で反論はあるだろうが、著者は 言っている。 「物事を自分が楽観的に考えて、何か失ったり悪くなることはありますか?」






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